衛生管理の知識

健康診断は事業者と労働者の義務

  健康診断は事業者にとっても労働者にとっても義務です。勤務時間中に実施し、100%の受診率を目指して下さい。
事業者は労働安全衛生法第66条に基づいて、健康診断を実施する義務があり、労働者は健康診断の受検義務があります。
健康診断を実施した際には労働基準監督署への届け出が必要です。当社では監督署への報告書の見本をご用意しています。

健康診断の種類

種類 対象 実施時期
雇入時健康診断 常時使用する労働者 雇入れ時
定期健康診断 常時使用する労働者 1年以内に1回
特定業務従事者の健康診断 労働安全衛生規則第13条第1項第2号の業務に従事する労働者 配置換えの際及び6月以内に1回
海外派遣労働者の健康診断 海外に6ヶ月以上派遣される労働者 海外に派遣する際及び帰国後
他にも、給食従業員の検便検査を行う場合があります。
雇入時健康診断は入社から1ヶ月以内に実施して下さい。雇入の3か月前に法定項目を実施している場合には免除することができます。

健康診断の項目

項目名 雇入時健康診断 定期健康診断 特定業務従事者の健康診断
既往歴及び業務歴 必須 必須 必須
自覚症状及び他感症状 必須 必須 必須
身長 必須
体重 必須 必須 必須
腹囲 必須
視力 必須 必須 必須
聴力 必須 必須 必須
胸部X線 必須 必須 1年以内に実施されていれば省略可能
喀痰検査 不要
血圧 必須 必須 必須
血色素量(ヘモグロビン、Hb)及び赤血球数 必須
GOT(肝機能) 必須
GPT(肝機能) 必須
γGTP(肝機能) 必須
血清トリグリセライド(中性脂肪) 必須
LDLコレステロール(悪玉コレステロール) 必須
HDLコレステロール(善玉コレステロール) 必須
血糖(空腹時血糖又は随時血糖) 必須
尿蛋白 必須 必須 必須
尿糖 必須 必須 必須
心電図 必須

※は医師の判断で省略可能
参照:健康診断の一部項目は省略が可能です

雇入時健康診断は検査項目を省略することができません。血糖検査では空腹時又は随時血糖の検査が必須です。 HbA1cは2-3ヶ月の血糖の推移を把握するために有用な検査ですが、HbA1cのみの検査は認められません。

特定業務従事者の健康診断

重量物の取扱い等重激な業務、深夜業を含む業務で該当する事業場が多いです。
特定業務従事者は6ヶ月以内に1回、健康診断を実施して下さい。定期健康診断を実施後、1年以内であれば特定業務従事者の健康診断を省略することができます。
多くの事業場では特定業務従事者の健康診断を実施する場合は年に1回しか実施しません。年1回の定期健康診断と年1回の特定業務従事者の健康診断としています。

重量物とは

おおむね30キログラム以上の物のことです。

深夜業とは

業務の常態として、深夜業(午後10時から翌朝午前5時までに一部でもかかる業務)を1週間1回以上又は1月に4回以上行う業務のことです。
午後10時以降の勤務が平均して週1回以上ある場合や、繁忙期のみ(業務の常態に該当)午後10時以降に働く場合は深夜業に該当します。
参照:特定業務(有害業務)

雇入時健康診断と定期健康診断の実施時期

雇入時健康診断は雇入れ時に、定期健康診断は1年以内毎に1回実施する義務があります。

雇入時健康診断を実施して間もない労働者の定期健康診断

雇入時健康診断を実施後、1年以内であれば定期健康診断を省略することができます。雇入時健康診断の検査項目が定期健康診断に含まれているからです。

アルバイト、パート、契約社員の健康診断について

以下の1〜3に該当し、1週間の所定労働時間がフルタイムの労働者の4分の3以上である場合は定期健康診断を実施する義務があります。
  1. 雇用期間の定めのない者
  2. 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上使用される予定の者
  3. 雇用期間の定めはあるが、契約の更新により1年以上引き続き使用されている者
一方、派遣労働者(派遣元で実施)や業務委託の労働者に対しては実施する義務はありません。

健康診断の費用は誰が払うべきか

労働安全衛生法によって事業者に課された義務であり、原則として費用は事業者が負担すべきです。

定期健康診断の血液検査は省略可能

雇入時健康診断では検査項目の省略ができません。法定の肝機能や脂質などを測定するために血液検査を実施する義務があります。
定期健康診断では医師の判断で一部の検査項目を省略することができます。血圧などを省くことはできませんが、血液検査を省略することは可能です。医師の判断といのは健診機関の医師ではなく、職場や労働者の事情を熟知している産業医が該当します。検査項目を省略する際には産業医と相談して下さい。
血液検査を実施しないと肝機能や脂質の値を知ることはできません。これらの有所見率は約50%です。産業医の立場では、原則は血液検査を実施することが望ましいと考えます。

健康診断の結果

事業者は健康診断の結果を医師等に確認させる義務があります。医師等には医師(産業医)と歯科医師が含まれます。一部の有害物質は歯に影響を与えることが知られていることから企業内に歯科医がいる事業場があります。
健康診断の結果には健診機関の医師の名前、検査結果、ABCDE評価、生活習慣指導や通院などのコメントが書かれています。これは「健康診断の結果を医師等に確認させる義務」には該当しません。きちんと健康診断の結果を産業医に見せて下さい。
忘れられがちですが、事業場の労働者数に関係無く健康診断を実施し、結果を産業医(いなければ他の医師)に確認をしてもらう義務があります。同様に過重労働者の面談義務についても労働者数に関係無く義務化されています。当社では健康診断の結果確認や過重労働者の面談のみの業務も請け負っています。

産業医は健康診断の結果を見て、異常所見の有無を確認します。検査結果が就業に影響するかを通常勤務、就業制限、要休業の3つの区分に分けます。
異常所見があったとしても概ね仕事には影響はありません。ほとんどが通常勤務に区分されます。しかし、明らかに心身の負荷となるような健康状態の場合には、就業制限とし、「過重労働や夜勤などを制限して下さい」というような意見を述べます。要休業に区分することはほとんどありません。
参照:健康診断の結果が届いたら

定期健康診断は年次推移を把握し、前年より健康状態が悪化している労働者については産業医面談を積極的に設定するなど、健診結果を活用することが労働者の健康管理に大切です。
参照:事業場で定期健康診断の年次推移を作ろう

健康診断結果の取り扱い

健康診断の結果は労働者に渡し、事業場でも保管する必要があります。多くの企業では人事部、総務部で健康診断の結果の管理をしています。

誰が取り扱うか?

健康診断の結果は究極のプライバシー情報ともいえるため、事業場で誰が取り扱うかを事前に決める必要があります。
時々、「正社員以外の派遣社員、パート社員も健康診断の結果の管理やデータ入力業務を担当できますか?」という質問を受けます。労働法令に就業形態による制限は無いため、雇用区分に関係なく扱うことができます。一部の企業では「正社員のみ」が健康診断の結果を扱うようにルール化されていますが、派遣社員、パート社員などもその業務を担うことができます。
健康診断の結果は個人情報です。取り扱い担当者には守秘義務が課されます。健康診断の業務を外れた後であっても、守秘義務は続きます。