衛生管理の知識

特定業務(有害業務)における時間外労働の制限

特定業務とは労働安全衛生規則第13条第1項第2号に記載された業務のことを指します。健康に有害な業務であり、これらの業務では労災のリスクが高くなります。

労働基準法施行規則第18条において、これらの業務(坑内、深夜、水銀などを取り扱う業務、病原体によって汚染のおそれが著しい業務を除く)では1日の時間外労働を2時間以下にする必要があります。36協定の特別条項で80時間/月の時間外労働を定めても、暑熱が著しい職場では法定労働時間を超える時間外労働は2時間/日に制限されます。1日の法定労働時間は8時間であり、これに2時間を加えた1日10時間が労働時間の最大値となります。尚、平日だけでなく、土日でも10時間まで働くことができます。

特定業務の種類

以下の業務が特定業務として定められています。
当社のお客さまでは、「多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務」、「重量物の取り扱い等重激な業務」、「深夜業を含む業務」に該当する事業場が多いようです。
  1. 多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
  2. 多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
  3. ラジウム放射線、X線その他の有害放射線にさらされる業務
  4. 土石、獣毛等の塵埃または粉末を著しく飛散する場所における業務
  5. 異常気圧下における業務
  6. 削岩機、鋲打機等の使用によって、身体に著しい振動を与える業務
  7. 重量物の取り扱い等重激な業務
  8. ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
  9. 坑内における業務
  10. 深夜業を含む業務
  11. 水銀、ヒ素、黄リン、フッ化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、苛性アルカリ、石炭酸、その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
  12. 水銀、砒(ひ)素、黄りん、弗(ふつ)化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、か性アルカリ、石炭酸その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務
  13. 鉛、水銀、クロム、砒(ひ)素、黄りん、弗(ふつ)化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリンその他これらに準ずる有害物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
  14. 病原体によって汚染のおそれが著しい業務
  15. その他労働大臣が定める業務

特定業務の解説

多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務

溶融又は灼熱せる鉱物、煮沸されている液体等摂氏100度以上のものを取り扱う業務や、労働者の作業する場所が乾球温度摂氏40度、湿球温度摂氏32.5度、黒球寒暖計示度摂氏50度又は感覚温度32.5度以上の場所における業務です。
例:鉄工所や火を扱う工場で高温な業務

多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務

液体空気、ドライアイスなどが皮膚にふれ又はふれるおそれのある業務や、乾球温度摂氏零下10度以下の場所における業務です。空気の流動ある作業場では気流1秒あたり1メートルを加うる毎に乾球温度摂氏3度の低下あるものとして計算します。
例:冷蔵倉庫業、製氷業、冷凍食品製造業における冷蔵庫、貯氷庫、冷凍庫等の内部における業務

ラジウム放射線、X線その他の有害放射線にさらされる業務

放射性物質を扱う業務です。

土石、獣毛等の塵埃または粉末を著しく飛散する場所における業務

粉じんが顕著な業務です。具体的には、植物性(綿、糸、ぼろ、木炭等)動物性(毛、骨粉等)鉱物性(土石、金属等)の粉じんを、作業する場所の空気1立方センチメートル中に粒子数1,000個以上又は1立方メートル中に15ミリグラム以上含む場所における業務です。特に遊離けい石50パーセント以上を含有する粉じんについては、その作業する場所の空気1立方センチメートル中に粒子数700個以上又は1立方メートル中10ミリグラム以上を含む場所のことです。

異常気圧下における業務

1.高気圧下における業務
潜函工法、潜鐘工法、圧気シールド工法その他の圧気工法による大気圧をこえる圧力下の作業室、シャフト等の内部における業務、ヘルメット式潜水器、マスク式潜水器その他の潜水器を用い、かつ、空気圧縮機若しくは手押しポンプによる送気又はボンベからの給気を受けて行う業務です。

2.低気圧下における業務
海抜3,000メートル以上の高山における業務など、気圧の変化が顕著な業務です。

削岩機、鋲打機等の使用によって、身体に著しい振動を与える業務

身体へ衝撃が大きい業務です。衝程70ミリメートル以下及び重量2キログラム以下の鋲打機は含みません。

重量物の取り扱い等重激な業務

重量物を取扱う業務とは、30キログラム以上の重量物を労働時間の30パーセント以上取扱う業務及び20キログラム以上の重量物を労働時間の50パーセント以上取扱う業務です。過激な業務とは前号に準ずる労働負荷が労働者にかかる業務で、労働時間の多くを重量物の運搬に費やす業務などが該当します。

ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務

ボイラー業務で、職場の音圧が100デシベル以上の強さの場合です。100デシベルは電車のガード下の騒音と同様です。

坑内における業務

言葉の通り、坑内の業務です。

深夜業を含む業務

深夜業(午後10時から翌朝午前5時までに少しでもかかる業務)を一週間に1回以上又は一か月に4回以上行う業務に従事する場合、業務内容に深夜労働が含まれている場合が対象となります。

繁忙期は深夜労働をし、閑散期は日勤で定時で帰れる働き方をしている場合、業務内容に深夜労働が含まれているが実施は深夜労働をしない場合も健康診断の対象となります。

水銀、ヒ素、黄リン、フッ化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、苛性アルカリ、石炭酸、鉛、クロム、亜硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、ベンゼン、アニリン、その他これらに準ずる有害物のガス、蒸気または粉塵を発する場所における業務

有害物を扱う業務です。

病原体によって汚染のおそれが著しい業務

病院などで感染源と接したり、検査などを行う業務です。

特定業務における時間外労働の制限

労働基準法施行規則第18条には法定労働時間の延長が2時間/日を超えてはならない業務が定められています。特定業務に常時従事する場合、労働時間が1日10時間を超えない(法定労働時間で2時間しか残業ができない)という意味です。例えば事務作業を4時間、冷凍庫作業を4時間であれば、特定業務の労働時間は4時間のため、さらに6時間冷凍庫作業ができるといえます。
特定業務(有害業務)の多くがこの時間外労働の制限の対象となっています。坑内、深夜、病原体取り扱いなど、一部の業務は時間外労働が2時間/日に制限されません。36協定で月45時間と定めていても、毎日2時間までの時間外労働が限度となります。特定業務は心身への負荷が目立つため、休憩時間を確保したり、他の業務を組み合わせることが推奨されます。産業医の指示を受けながら作業環境管理、作業管理、健康管理を実施することが求められます。

特定業務と時間外労働の制限一覧

業務内容 労働安全衛生規則 労働基準法
多量の高熱物体を取り扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務 対象 対象
多量の低温物体を取り扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務 対象 対象
ラジウム放射線、X線その他の有害放射線にさらされる業務 対象 対象
土石、獣毛等の塵埃または粉末を著しく飛散する場所における業務 対象 対象
異常気圧下における業務 対象 対象
削岩機、鋲打機等の使用によって、身体に著しい振動を与える業務 対象 対象
重量物の取り扱い等重激な業務 対象 対象
ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務 対象 対象
坑内における業務 対象 対象外
深夜業を含む業務 対象 対象外
水銀、ヒ素、黄リン、フッ化水素酸、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、苛性アルカリ、石炭酸、その他これらに準ずる有害物を取り扱う業務 対象 対象外
鉛、水銀、クロム、ヒ素、黄リン、フッ化水素、塩素、塩酸、硝酸、亜硫酸、硫酸、一酸化炭素、二硫化炭素、青酸、ベンゼン、アニリン、その他これらに準ずる有害物のガス、蒸気または粉塵を発する場所における業務 対象 対象
病原体によって汚染のおそれが著しい業務 対象 対象外
労働基準法第18条では、上記特定業務のほか、厚生労働大臣の指定する業務も時間外労働制限の対象となっています。

特定業務従事者の健康診断

労働安全衛生規則第45条には、特定の業務に常時従事する労働者に対して、配置換えの際及び6ヶ月に1回の健康診断の実施が定められています。
よくご相談をいただく業務は、暑熱、重量物、深夜業、一酸化炭素、病原体に関わる業務についてですが、こちらの業務については年2回の健康診断の実施が必要です。
健康診断の際の検査項目については、健康診断をご参照ください。

特定業務(高温、重量物、深夜などが多い)についての業務が多く寄せられます。

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