衛生管理の知識

雇い入れ時の安全衛生教育マニュアル【全事業場で義務】

雇い入れ時の安全衛生教育は全事業場で義務です。2024年4月1日の法令改正で全業種で教育項目が統一されてから、この教育ができているかについての労基署の指導が激増しています。当然ですが労働災害を防ぐ意味でもこの教育は大切です。

「教育の資料が欲しい」「教育について何をどうすべきか分らない」という意見を数多くいただいています。この記事にある安全衛生教育マニュアルを各企業で編集し、雇い入れ時の安全衛生教育にご利用ください。事務職では危険業務が無いため、勤怠管理、打刻、時間外労働、健診、ストレスチェック(メンタル対策)、ハラスメント、連絡網、防災、整理整頓、救急箱、休養室、腰痛対策、相談窓口を入れることがコツです。

雇い入れ時の教育は義務

雇い入れ時の安全衛生教育は全事業場で義務です。労働安全衛生法第五十九条第一項に「事業者は、労働者を雇い入れたときは、当該労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、その従事する業務に関する安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。」と書かれており、労働者が業務に就く前に実施することが求められています。雇用形態や国籍にかかわらず、すべての労働者が対象です。罰則規定があるため、未実施の場合は労基署から検挙(是正勧告。場合によっては送検→裁判)されることがあります。

教育の目的は労災を防ぐことです。工場や建設現場で勤務をする際には機械の取り扱い方法を間違えると重大な事故につながることがあります。事務職であっても過重労働によってうつ病や心筋梗塞などの健康被害が生じることがあります。雇い入れ時の教育を通じて、労働者の安全や健康意識を高め、労働災害の防止をすることができます。

安全衛生教育に含める事項

教育内容に含める必要がる事項は労働安全衛生規則第三十五条に書かれています。

  • 機械等、原材料等の危険性又は有害性及びこれらの取扱い方法に関すること。
  • 安全装置、有害物抑制装置又は保護具の性能及びこれらの取扱い方法に関すること。
  • 作業手順に関すること。
  • 作業開始時の点検に関すること。
  • 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防に関すること。
  • 整理、整頓(とん)及び清潔の保持に関すること。
  • 事故時等における応急措置及び退避に関すること。
  • 前各号に掲げるもののほか、当該業務に関する安全又は衛生のために必要な事項

上記の法令の内容は「安全」が主となります。製造業や建設業では有害業務、危険作業が多いため、機械作業などについての手順や、緊急停止ボタンの場所などを教育をするのは想像に難くありません。一方、事務職ではそもそも危険な業務が少ないため、安全衛生教育にどのような項目を入れればいいか分らないという意見を数多くいただいています。

事務職でも過重労働が生じたり、健康診断で生活習慣病の発見されたり、ハラスメントなどの問題が生じることがあります。労基署は勤怠管理、健康、労災を重視しています。従って事務職でも勤怠管理、打刻、時間外労働、健診、ストレスチェック(メンタル対策)、ハラスメント、連絡網、防災、整理整頓、救急箱、休養室、腰痛対策、相談窓口について雇い入れ時の安全衛生教育を行うことがコツです。これらの項目で上記の項目の全てを満たすことができます。

教育資料を渡して終わりということは不適切です。口頭で説明して、紙(データ)を渡さないことも同様に不適切です。印刷したものもしくはデータを渡し、内容を口頭で説明する機会を作ってください。

雇い入れ時の安全衛生教育マニュアル

この雇い入れ時の安全衛生教育の資料を使えば簡単に安全衛生教育を行えます。

労働時間

勤務時間は月曜日から金曜日の9時から18時です。土曜日、日曜日、祝日、その他会社が指定する日は休日です。

当社は原則として時間外労働が生じない経営を行っています。雇用契約に関係なく、時間外労働が生じない働き方を行ってください。原則として時間外労働は月45時間以内、年360時間以内です。月45時間の超過は年6回まで可能ですが、突発的で予期できないなどの臨時でやむを得ない理由が無ければ認められません。時間外労働が年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満、時間外労働と休日労働の合計について、複数月平均で80時間以内、毎週休日は1回以上という基準も守る必要があります。

当社は長時間労働を推奨していません。長時間労働は睡眠時間やプライベートの時間を確保し辛くなり、心身ともに悪影響を与える可能性があります。なるべく定時で仕事を終えるように努めてください。

打刻

管理監督者を含めて全労働者が打刻する義務があります。勤務開始時、退勤時には所定のシステムを用いて必ず打刻を行ってください。打刻をし忘れた際や打刻を修正する必要がある際には該当日から1週間以内に労務担当に申請してください。

勤務開始前、退勤後に業務をすることを禁止しています。当然ですが、帰宅後に業務用パソコン、スマートフォン、その他個人が所有するパソコンなどを用いての業務も禁止です。

残業と休日出勤

残業や休日出勤は直属の管理監督者(不在の場合は他部署の管理監督者)の指示に基づいて行います。指示がない残業は禁止で、労働者の判断で勝手に残業を行わないでください。残業は当日終える必要がある業務を終えられない場合しか行えません。

予め直属の管理監督者に下記の内容を報告し、残業の許可、残業時間の指示をもらってください。

  • 残業が必要な理由(例:本日までにサーバーの故障を直す必要がある。明日の朝のプレゼン資料を作成する必要がある。来週の決算発表に間に合わせるためなど)
  • 予定残業時間(20時までなど)

予定残業時間を超過する場合には、再度直属の管理監督者に残業の依頼を出し、許可を得てください。

健康診断

健康診断は労働者が自らの体調を知ることを目的としています。体調を理解することで生活習慣の改善につなげることができます。生活習慣病などを早期に発見することができれば、早期治療につながり、健康寿命を伸ばすことができます。

労働者は健康診断を受検する義務があります。年に1回、必ず健康診断を受検してください。健康診断の実施時期は労務担当に聞いてください。健康診断の費用は会社が支払います。

健康診断の結果を産業医(社内の医師)が確認し、通常勤務、就業制限(残業禁止など)、要休業の3区分で就業判定を行います。血圧が著しく高い場合は脳卒中や心筋梗塞といった致死的な病気のリスクが高くなります。時間外労働、夜勤、出張なども同様にこれらの病気のリスクを高めることが分っています。産業医が「検査結果が著しく悪いため致死的な病気のリスクが高い」と判断した者は就業制限となり、残業などができなくなることがあります。日頃から健康管理を行うことは労働者にとっても会社にとっても非常に大切です。希望者には産業医による保健指導(食事、運動、酒、煙草などについて指導を受けたり、現在の治療内容について対話をする機会)を行っているため、希望者は労務担当へ申し出てください。

ストレスチェック

ストレスチェックは労働者が自らのストレスの状況を知ることを目的としています。ストレスの状況を知ることでセルフケアを行い、メンタルヘルスの状態を良好に保つことができます。高ストレス者になった場合は産業医面談を受けることができ、日ごろの悩み、心身の状態を相談し、産業医から専門的なアドバイスをもらうことができます。

労働者は健康診断と異なり、ストレスチェックを受検する義務はありません。上記の通り、労働者にとってのメリットがあるため、全社で年に1回行う際に受検することを推奨しています。ストレスチェックの実施時期は労務担当に聞いてください。ストレスチェックの費用、産業医面談の費用は会社が支払います。

なお、ストレスチェックの個人の結果のプライバシー保護は行われています。労働者の開示希望が無い限り、産業医と実務従事者以外の社内の関係者が知ることはありません。

ハラスメント

当社はハラスメントを一切認めていません。このハラスメントにはパワーハラスメント、セクシャルハラスメントだけでなく社外からのカスタマーハラスメントも含みます。ハラスメントに関する規定の作成、相談窓口の設置、ハラスメントの申告があった際の業務フローの確立、プライバシー保護と不利益の禁止といった対策を行っています。

ハラスメントを受けた場合、ハラスメントを見かけた場合にはハラスメント窓口に通報してください。匿名で相談することもできます。

緊急時連絡網

連絡網は次の通りです。
●●→△△課長070●●→■■部長080●●→総務部長090●●
緊急時や上司に連絡がつかない場合には総務部長へメールか電話をしてください。

防災関連

出社の有無に関係なく、震災や火災時には自らと家族の安全を第一に行動してください。当社の防災担当は次の通りです。

  • 防災責任者(全体の統括):総務部長090●●
  • 情報担当(情報の収集):総務課長080●●
  • 消火、救護担当(消火や負傷者の救護):人事部、労務部070●●

本社の避難経路はエレベーターを使用せず、非常階段を利用します。大震災などの場合には防災責任者が出社要否の連絡を行いますが十分に把握できないことがあるため、出社が難しい場合には無理をして出社しなくても問題ありません。本社で被災した際には防災責任者などの指示で●●公園へ移動します。通勤できないほどの被災にあった場合、●●公園へ移動する場合には、情報担当へ次の内容を報告してください。
  • 体調に問題があるか(怪我だけでなくメンタルも)
  • 連絡がとれる状況か
  • 出社できる状況か
  • 家族に影響があるかなど

整理整頓

快適な職場環境を維持するために職場の整理整頓を行ってください。業務に関係無い物を職場に持ち込まないようにしてください。各自でゴミ箱を設置する際にはビニール袋をかぶせ、ゴミ箱自体が汚染されないようにしてください。帰宅時には各自のゴミ袋を空にし、机の上の物を置かないようにしてください。

冷蔵庫について、会社の判断で賞味期限切れや長期間放置されている物を廃棄すること、会社は紛失食や中毒などの責任を負わないことを承諾した上でご利用ください。弁当などを持参する際には食中毒を予防するために冷蔵庫を使ってください。冷蔵庫を利用する際には氏名を記載してください(付箋で問題ありせん)。毎週金曜日に総務部が冷蔵庫の確認を行い、賞味期限切れや長期間放置されている物が確認された場合には廃棄します。

救急箱

救急箱は総務部に置いています。包帯、ピンセット、消毒液、痛み止めや風邪薬といった市販薬があります。使用した際には日付、使用者、物品名を管理簿に記載してください。原則として外傷を含めて体調に問題がある場合には通院をしてください。

休養室

男女別の休養室を設けています。男性はA休養室、女性はB休養室です。体調不良時のみ使用することができます。使用する際には労務担当に申し出て鍵をもらってください。1回あたり15分以内とします。総務担当が休養室に体調確認しに行くことがあります。原則として15分を超えて使用することはできないため、体調不良が続く際には早退を検討してください。

腰痛対策

業務上疾病で一番多い疾患が腰痛です。座位は立位と比較して腰に1.4倍の負荷がかかるため、座り仕事も腰痛の原因となります。体位を変えることが有用なので、座り仕事をする場合には1時間に1回立ってください。立ったまま仕事をしている人は座ってください。

重量物を運ぶことも腰痛の原因です。積極的に台車を利用してください。人力で1人で運ぶ重量は男性は20kg以下、女性は12kg以下とし、これを超える場合には2人以上で運んでください。腰を前屈みにしたり、腰をねじることも腰痛になることが多いため、前屈みとねじることを避けてください。

有機溶剤・機械作業など(該当業務がある場合のみ)

職場の事情に応じて記載します。多くの企業では別の資料を用いて教育しています。別紙参照でも問題ありません。仮に書くとすれば以下のような内容を検討してください。

トルエン:塗装作業で用いています。管理区分1のため作業環境は良好であり、健康への影響はないと考えられます。しかしながら、労働者が誤った使い方をすると健康に支障が出たり、他の労働者や職場全体の悪影響になることもあります。本作業を担当する場合には特殊健診を年2回受ける、防護具(保護めがね、保護マスク、保護衣、保護手袋、保護靴)を利用する、局所排気装置を用いてください。詳細な内容は職場にあるSDS(有機溶剤の取り扱いについての資料)を必ず精読してください。

各種相談窓口

相談窓口は次の通りとなります。就業規則などの文書は●●に置かれていますので自由に確認してください。
勤怠、健康診断、ストレスチェックなど・・・労務担当、産業医
ハラスメント・・・ハラスメント担当、産業医
災害時・・・危機管理担当・直属の管理監督者




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