衛生管理の知識

健康診断の事後措置

労働安全衛生法では、事業者(会社)は、健康診断の結果に異常所見がある場合、医師からの意見を聴取する義務があります。この医師は産業医であり、健康診断を実施した医療機関の医師ではありません。
脳・心臓疾患を未然に防止するために、医師から得た就業措置の意見に基いて就業措置を行う必要があります。

健康診断の結果は事業者と受検者(労働者)の両者が保管する

健康診断の結果は必ず受検者に渡す必要があります。また、事業者は健康診断の結果を以下の期間、保管する義務があります。
  1. 一般定期健康診断 5年間
  2. 特殊健診 5年、じん肺 7年、放射線や特定化学物質の一部 30年、石綿(アスベスト) 40年

健康診断の代わりに人間ドックを実施した場合の対応

事業者によって、健康診断の代わりに胃カメラや頭部MRIなどを含めた人間ドックを実施しています。人間ドックの検査項目に健康診断の法定項目が含まれている場合は健康診断の代わりとしてみなすことができます。
しかし、健康診断の結果は会社で保管する義務があり、乳がん検診や大腸カメラの結果などの法定外の項目をそのまま会社で預かることは不適切です。人間ドックの結果の結果を会社に提出する際に、法定外の項目を消すか、受検者から「健康診断の代わりに人間ドックの結果を提出します。健康診断と同様の扱いを希望します。」という同意書得ることが望ましいです。

事業者が受け取った健康診断を産業医に確認させる必要がある

健康診断の結果用紙には血圧、LDLコレステロール、空腹時血糖などの各項目の数値と、ABCDEなどの評価が記載されています。 健康診断実施機関の医師の名前も書かれていますが、医師の名前が記載されているから産業医に確認させなくていいというお考えの事業者が少なからずおられます。きちんと産業医に見せ、産業医から判定をもらって下さい。
健康診断のABCDE判定は医療機関によって判定基準が異なり、全国で統一されていません。同じ数値でも○○病院ではB判定、△△クリニックではC判定となることがあります。

産業医が結果を確認し、事後措置の意見を述べる

産業医が健康診断の結果を確認し「通常勤務」「就業制限」「要休業」の判断をし、事業者に報告をします。
産業医はD判定以上は全員「就業制限」というようなことはしていません。一つの検査項目が著しく悪い場合はその項目だけで「就業制限」と判断をすることがあります。複数の項目を鑑みて判断することや、時間外労働の状況、業務内容などを考慮して判定を行っています。
産業医はほとんどの受検者を「通常勤務」と判断しますが、全体の数%が「就業制限」となります。「要休業」とすることはほとんどありません。
「就業制限」の措置内容は、各々の職場の状況に応じて異なりますが、
  • 心身の負荷の軽減
  • 出張禁止
  • 時間外労働の禁止
  • 週5日
  • 日勤
などを産業医の意見として述べることが多いです。
当社が請け負う事例では、脂質(中性脂肪など)、血圧、血糖の値が顕著に高い場合に就業制限の意見を述べることが多いです。

事業者は産業医の意見、職場や本人の状況を鑑みて措置内容を決定する

事業者は産業医の意見を尊重し、職場の業務環境や本人の体調などを考慮した上で、最終的に就業制限の内容を決定します。
例えば著しい高血圧が認められる場合に時間外労働の禁止と日勤、貧血が著しい場合に高所作業を禁止などと就業措置を実施することがあります。

就業措置だけで終わらせない、受診、保健指導を!

健康診断の結果が悪くて就業措置になった場合、通院をして健康の状況を改善することが必要です。産業医と相談をし、健診の異常項目に応じて内科、婦人科、眼科などへの受診をします。
就業制限の緩和や変更の際には主治医や産業医の意見を参考にして下さい。繁忙期だから残業をそのまま継続しているということが時々あるようですが、心身への負荷がかかる労働を続けていると脳卒中や心筋梗塞という致命的な労働災害につながる可能性が高くなります。
また、産業医や保健師などによる保健指導を実施し、運動、食事、喫煙、飲酒などの生活習慣を見直すこともより良い健康のためには大切なことです。

疾病の有病率は年齢が上がるほど高くなるため、高齢化社会が進む日本の職場においては、疾病の治療と仕事の両立への対応が必要となります。