2023年から特殊健診を年1回に減らせる。労働法令改正を解説。
2023年から2024年にかけて労働安全衛生規則などが改正されます。インパクトが一番大きいのは、有機則や特化則の特殊健診を6ヶ月に1回から1年に1回に減らすことができることです。義務化される内容が多いため、改正された内容をきちんと理解し、励行してください。今後は有機溶剤などを事業場では責任をもって自主管理をする方針となり、産業医や衛生委員会の役割がより重要になります。
当社では有機則、特化則の事業場での産業医業務の経験が豊富です。お気軽にご依頼ください。
健康診断の実施頻度の緩和(2023年4月1日施行)
今回の法令改正で一番インパクトがある内容です。要件を満たす化学物質の作業環境管理、作業管理がきちんとできている事業場では健診の頻度を6ヶ月に1回から年に1回に減らすことができます。有機溶剤、特定化学物質(特別管理物質などを除く)などの実施頻度について、作業環境管理やばく露防止対策などが適切に実施されている場合には、健康診断の実施 頻度を1年以内ごとに1回に緩和することができます。
産業医の助言を踏まえて、事業場単位ではなく事業者が労働者ごとに行い、衛生委員会での審議を経てください。同一の作業場で作業内容が同じで、同程度のばく露があると考えられる労働者が複数いる場合には、その集団の全員が上記要件を満たしている場合に実施頻度を1年以内ごとに1回に見直してください。
健康診断結果の結果は労働安全衛生規則にて5年間保存するよう定められています。特殊健診対象の該当物質を取り扱わなくなっても、その労働者を雇用している以上特殊健診を実施する必要があります。
要件は以下の全てを満たす場合です。①労働者が作業する単位作業場所における直近3回の作業環境測定結果が第一管理区分に区分(※四アルキル鉛を除く)②直近3回の健康診断において、労働者に新たな異常所見がない③直近の健康診断実施日からばく露の程度に大きな影響を与えるような作業内容の変更がない。
化学物質管理者の選任の義務化(2024(令和6年)年4月1日施行)
リスクアセスメント対象物(2018年時点で673物質で年々増加)を製造し、又は取り扱う事業場が対象で、業種や規模要件はありませんが、小売店などで一般消費者の生活の用に供される製品のみを取り扱う事業場は対象外です。個別の作業現場毎に選任する必要はなく、工場や営業所といった事業場単位で化学物質管理者を選任することになります。
選任要件は化学物質の管理に係る業務を適切に実施できる能力を有する者となり、リスクアセスメント対象物の製造事業場では専門的講習(現時点では未確定)の修了者、リスクアセスメント対象物の製造事業場以外の事業場では資格要件はありません。
保護具着用管理責任者の選任の義務化(2024年4月1日施行)
リスクアセスメントに基づく措置として労働者に保護具を使用させる事業場が対象です。マトリクスやコントロールバンディングなどを用いてリスクアセスメントをし、リスク低減措置として保護部を着用と判断した場合が対象です。リスクアセスメントの結果が低リスクであっても、SDSで保護具の記載があれば保護具の着用が必要なため、リスクアセスメントの有無に関係無く義務化されると考えてください。
選任要件は保護具について一定の経験及び知識を有する者であり、現時点では未確定ですが衛生管理者などの一定の経験及び知識を有する者とされる予定です。
雇入れ時教育の拡充(2024年4月1日施行)
全ての事業場で雇い入れ教育が義務化されます。特定の業種においては一部教育項目の省略が認められていましたが、省略規定が廃止されます。危険性・有害性のある化学物質を製造し、又は取り扱う全ての事業場において、化学物質の安全衛生に関する必要な教育が行われることになり、本来のあるべき姿になります。
SDSなどによる通知方法の柔軟化(2022年3月23日施行)
SDS情報の通知手段は文書の交付もしくは相手方が承諾した方法(磁気ディスクの交付、FAX送信など)でした。紙かPDFでのデジタルデータでの受け渡しが一般的でした。今後は相手が容易に確認可能な方法であれば、事前に相手方の承諾を得なくても採用することができるようになります。以前の方法だけでなく、電子メール送信、通知事項が記載されたホームページのアドレス、二次元コードなどを伝達し、閲覧を求めるといった手段が可能になります。
人体に及ぼす作用の定期確認及び更新(2023年4月1日施行)
SDSの交付が義務となっている物質について、SDSの通知事項の一つである「人体に及ぼす作用」について、定期的に確認・更新し、変更内容の通知を行う必要が生じます。5年以内ごとに記載内容を確認し、変更がある時は1年以内に更新し、変更した時は変更内容を通知することになります。SDS交付が努力義務となっていない物質などは努力義務となります。SDSなどによる通知事項の追加及び含有率表示の適正化(2024年4月1日施行)
SDSの通知事項に「(譲渡提供時に)想定される用途及び用途における使用上の注意」が追加、「成分及びその含有量」における成分の含有量の記載について、重量パーセントの記載が必要になります。
化学物質を事業場内で別容器などで保管する際の措置の強化(2023年4月1日施行)
有機溶剤を事業場内で小分けする場面は一般的ですが、小分けされた容器に物質名などが記載されていない事例が散見されました。労働安全衛生法第57条で譲渡・提供時のラベル表示が義務付けられている危険・有害物質について、他の容器に移し替えて保存する場合は内容物の名称やその危険性・有害性情報をラベルを貼付するなどをする必要があります。
リスクアセスメント結果などに係る記録の作成及び保存(2023年4月1日施行)
リスクアセスメントの結果及び結果に基づき労働者の健康障害を防止するための措置の内容などについて、記録を作成し、次のリスクアセスメントを行うまでの期間保存し、労働者に周知する必要があります。リスクアセスメントが3年以内に実施される場合は3年間となります。
労働災害発生事業場などへの労働基準監督署長による指示(2024年4月1日施行)
労働基準監督署長が事業場における化学物質の管理が適切に行われていない疑いがあると判断した場合は、事業者に対し、改善を指示することになります。改善の指示を受けた事業者は化学物質管理専門家(労働衛生コンサルタントなど)から、リスクアセスメントの結果に基づき講じた措置の有効性の確認及び望ましい改善措置に関する助言を受けた上で、改善計画を作成し、労基署に報告し、改善措置を実施することになります。
リスクアセスメント対象物にばく露される濃度の低減措置(2023年4月1日施行)
代替物などの使用、発散源を密閉する設備や局所排気装置又は全体換気装置の設置及び稼働、作業の方法の改善、有効な呼吸用保護具の使用でばく露の程度を最小限度にする必要があります。措置の内容及び労働者のばく露の状況についての労働者の意見聴取、記録作成・保存(基本は3年)する必要もあります。リスクアセスメント対象物以外の物質にばく露される濃度を最小限とする努力義務も課せられます。
リスクアセスメントの結果に基づき事業者が自ら選択して講じるばく露防止措置の一環としての健康診断の実施・記録作成など(2024年4月1日施行)
健康影響の確認のため、事業者は労働者の意見を聴き、必要があると認めるときは、医師又は医師が必要と認める項目についての健康診断を行い、その結果に基づき必要な措置を実施し、健康診断を実施した場合は、5年間保存する必要があります。
化学物質への直接接触の防止(努力義務は2023年4月1日、義務は2024年4月1日施行)
我が国の法令は経気道による化学物質のばく露を想定したものとなっていました。昨今は経皮で吸収され、癌を含む多々の健康障害を起こす物質が多いことが明らかになっています。年々新たに化学物質が製造・使用される一方で、健康障害を含む安全性が分かっていない物質が非常に多い現状もあります。今後は経皮ばく露を含めた自主管理をきちんと行い、原則として全ての化学物質を取り扱う際に保護手袋などが必要となります。
皮膚・眼刺激性、皮膚腐食性又は皮膚から吸収され健康障害を引き起こしうる有害性に応じて、物質又は物質を含有する製剤を製造し、又は取り扱う業務に労働者を従事させる場合には、労働者に皮膚障害など防止用保護具を使用させる必要があります。健康障害を起こすおそれのあることが明らかな物質を製造し、又は取り扱う業務に従事する労働者は保護眼鏡、不浸透性の保護衣、保護手袋又は履物など適切な保護具の使用する必要があります。健康障害のおそれがないことが明らかなもの以外の物質を取り扱う場合は努力義務となります。
衛生委員会の付議事項の追加(2023年4月1日施行)
衛生委員会における付議事項にリスクアセスメント対象物にばく露される濃度の低減措置と健康診断の実施と記録作成が含まれるようになり、化学物質の自律的な管理の実施状況の調査審議が義務付けられます。
がんなどの遅発性疾病の把握の強化(2023年4月1日施行)
化学物質を取り扱う事業場において、1年に複数の労働者が同種のがんに罹患したことを把握したときは、業務に起因する可能性について医師の意見を聴き、医師が業務に起因するものと疑われると判断した場合は、遅滞なく、従事業務の内容などについて、労働局長に報告する必要があります。
個別指定の適応除外(2023年4月1日施行)
厳しい要件のため適応除外の申請をする事例は極めて希です。化学物質管理の水準が一定以上であると労働局長が認定した事業場は、物質の管理を事業者による自律的な管理(リスクアセスメントに基づく管理)に委ねることができます。専属の化学物質管理専門家(労働衛生コンサルタントなど)を選任すること、全てが第一管理区分であること、特殊健康診断で新たに異常所見があると認められる労働者がいないことなどが条件です。
第三管理区分の事業場に対する措置の強化(2024年4月1日施行)
外部の作業環境管理専門家(労働衛生コンサルタントなど)の意見を聴き、改善が可能な場合、専門家の意見を勘案して必要な改善措置を講じ、改善措置の効果を確認するための濃度測定を行い、その結果を評価する必要があります。改善が困難と判断した場合、個人サンプリング法などによる化学物質の濃度測定、保護具の着用などが義務化されます。
歯科健診は労働者数に関係なく届け出義務化(2023年10月1日施行)
労働安全衛生法第66条第3項において、事業者は、有害な業務※に従事する労働者に対し、歯科医師による健康診断を行い、安衛則第52条の規定により、常時50人以上の労働者を使用する事業者は 、歯科健康診断を行ったときは、労基署に提出する義務が課せられていました。50名未満の事業場で健診の実施率が低い(提出する必要がないから実施しなくてもばれなかったからでしょうか・・・)ことから、労働者数に関係なく労基署への届け出義務が発生することになりました。
従前から特定化学物質障害予防規則(特化則)や有機溶剤中毒予防規則(有機則)の特殊健診は労働者数に関係なく届け出義務があったため、全ての健診が労働者数に関係なく届け出義務が発生することになりました。
※塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、フッ化水素、黄りんその他歯又はその支持組織に有害な物のガス、蒸気又は粉じんを発散する場所における業務
スケジュール
労働安全衛生規などが改正されるスケジュールは次の通りです。今から産業医の意見を聞いた上で、速やかに対応をしてください。
図表は厚労省より承諾を得て利用。