衛生管理の知識

産業医の勧告権

産業医は事業者に対して衛生や健康などについて問題点がある場合に勧告を行うことができます。
労働安全衛生法第13条には「産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。」、「事業者は、前項の勧告を受けたときは、これを尊重しなければならない。」と記載されています。平成30年に労働安全衛生法が改正され、産業医が事業者に勧告を行う前に、あらかじめ事業者の意見を求めるようになりました。

産業医として事業者に対して何らかの改善が必要と思うことが度々ありますが、その全てに対して勧告を行うことはありません。
衛生委員会で改善内容を提言したり、衛生管理者に指導や助言を行って改善を図ります。衛生や健康へ深刻な問題を与える場合のみ事業者に対して文書で勧告を行います。

助言の後に、勧告を行う

産業医は毎月の衛生委員会に参加します。その際に職場内に衛生や健康に関する問題点がある場合には、問題点と改善案を提言します。
また産業医から衛生管理者に対して改善を促すこともあります。労働安全衛生規則第14条には「産業医は、第一項各号に掲げる事項について、総括安全衛生管理者に対して勧告し、又は衛生管理者に対して指導し、若しくは助言することができる」と記載されています。はじめから代表取締役、支店長、工場長などに勧告を行うことはほとんどありません。
衛生委員会で取り上げ、衛生管理者に指導や助言を行い、それでも改善がされない場合に事業者に勧告を行う流れが一般的です。平成30年に労働安全衛生法が改正され、産業医が事業者に勧告を行う前に、あらかじめ事業者の意見を求めるようになりました。当社へ産業医の切り替えの依頼がある際に、「前の産業医が的外れな勧告をすることがあった」という意見を聞くことがあります。これを回避する点での法改正だったかもしれません。

勧告書の例

産業医からの勧告書の一例です。

過重労働者の健康管理に係る勧告書

○○株式会社▲▲支店□□支店長殿

再三、衛生管理委員会で指摘し、支店長及び衛生管理者に直接言及しておりますが、労働安全衛生法第六十六条の八及び労働安全衛生規則第五十二条の二に基づく長時間労働者等に対する面接指導が実施されておりません。
早期に法定労働時間換算で、時間外・休日労働時間が1月当たり100時間超の労働者につき、労働者からの申出に基づいて医師による面接指導の実施をお願いいたします。80時間超の労働者についても面接指導の実施が望ましいと考えます。本面接指導は脳・心臓疾患の発症を予防するためのものです。事業者の判断で面接指導を行うかどうかを判断するのではなく、必ず該当労働者に面接指導の希望を聞いて下さい。
また、同条に基づく100時間超の労働者の氏名及び当該労働者に係る超えた時間に関する情報の提供を産業医に提出して下さい。
産業医として、面接指導の実施体制の構築、面接指導の実施及び意見書の作成などで協力をさせていただきます。
何卒よろしくお願いいたします。

労働安全衛生法 第六十六条の八 事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労 働省令で定める要件に該当する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない。
労働安全衛生規則 第五十二条の二 法第六十六条の八第一項の厚生労働省令で定める要件は、休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が一月当たり百時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者であることとする。以下略。

平成28年12月7日
○○株式会社 産業医 梶本隆夫

事業者は労働安全衛生法第13条に従って産業医からの勧告を尊重しなければなりません。
事業者に対して勧告を行うことは今までに数えるほどしかありませんが、産業医が勧告をする機会がない働きやすい職場環境作りをお願いいたします。

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