衛生管理の知識

自律神経失調症とパニック障害

産業医の立場で診断書を精査していると、診断書の病名に「自律神経失調症」と記載されていることが度々あります。
ここ数年で「自律神経失調症」という名前を用いる頻度が減っていますが、ICD-10(世界保健機関の診断基準)の精神障害のカテゴリーに自律神経失調症という病名が記載されていないことが原因かもしれません。
一方、「パニック障害」はICD-10に記載されており、メンタルヘルスの専門家はこの病名を日常的に使っています。
皆様のご想像の通り、「パニック障害」は過呼吸、多汗、動悸などが認められる病気ですが、自律神経失調症と比較して考えると分かりやすいです。

自律神経失調症とは

上述の通り、ICD-10には自律神経失調症という病名は存在しません。
自律神経は交感神経と副交感神経のことで、これらの神経は自分自身でコントロールをすることができません。
交感神経はストレスがあると自動的に反応する神経であり、動悸、発汗などにつながります。副交感神経はリラックスしていると自動的に反応する神経であり、徐脈、安心などにつながります。
自律神経失調症は自律神経の乱れ(交感神経が強くなり、副交感神経が弱くなる)が原因と言われています。
自律神経症状とはめまい、動悸、吐気、呼吸苦、過呼吸、発汗、腹痛、下痢などで、自律神経の乱れが原因となります。
つまり、自律神経失調症は自律神経の乱れのため、自律神経失調症があり、日常生活に支障を及ぼしている状態のことです。

パニック障害とは

パニック障害とパニック発作は同一ではありません。
パニック発作は自律神経症状と同じでめまい、動悸、吐気、呼吸苦、過呼吸、発汗、腹痛、下痢などが認められます。
パニック発作はうつ病、統合失調症などでも認められることがあります。
パニック障害はパニック発作だけでなく、予期不安(パニック発作が起こるのではという不安)や、場所への恐怖(電車や会議室、人混みなど)が認められることがあります。
パニック障害はパニック発作(自律神経症状)が持続し、予期不安や場所への恐怖などのため、日常生活に支障を及ぼしている状態です。 自律神経失調症≒パニック障害と考えることができます。

診断書でよくあるパターン

診断書にはパニック障害のことを自律神経失調症と記載していることがあります。
会社にパニック障害という診断名を隠したい、患者さまにパニック障害という病名を伝えたくない、主治医がパニック障害かどうか診断ができない場合などに自律神経失調症という病名をつけることがあります。
診断書の内容に疑問がある場合にはメンタルヘルスを専門とする産業医に相談をすることが大切です。