衛生管理の知識

残業月45時間超えの労基の指導が2点だけ変わりました

2026年9月1日から時間外・休日労働時間(以下、残業)が月45時間を超えた場合の労基の指導が変わりました。一律での月45時間超えの指導が無くなりますが、月45時間超えの者へ健康管理措置が実施されているかの指導が加わります。

下記に具体的な対応内容について記載しました。複数の労働基準監督署安全衛生課の監督官と対話し、「梶本産業医が述べる2点の内容について指導が変わることで問題ありません」との回答を得ています。

背景

日本成長戦略(2026年7月21日閣議決定)及び経済財政運営と改革の基本方針2026(同日閣議決定)において、「36協定の締結や柔軟な労働時間制度の活用について、よろず支援拠点等との連携を強化しつつ、「働き方改革推進支援センター」や労働基準監督署による相談支援の充実を速やかに実施する」、「労働基準監督署において、重大・悪質な事案に対しては厳正に対応しつつ、労働時間や労働者の健康確保措置に関する労使の合意にのっとった指導が行われるよう速やかに見直す。」などとされました。このため2026年9月1日より、労基署の指導が変わりました。

残業や休日労働が制限されている理由は、たくさん働き過ぎるとうつ病などの精神障害になったり脳卒中・心筋梗塞などの大血管障害になりやすくなることが医学、統計学で分かっているからです。多くの人は残業をしても心身ともに健康です。しかしながら、一部の人はこれらの病気になりかけの状態に陥ったり、極めてまれですが実際にこれらの病気になることがあります。このため残業時間数だと個体差が評価できません。医師・衛生管理者などによる健康管理措置を行うことで、健康障害を早期発見したり予防することのほうが合理的であることも指導内容が変わった背景にあります。

変更内容1 一律での月45時間超えの指導が無くなる

多くの事業者にとっては良い改正です。2026年8月までは残業時間数のみに着目して1か月45時間以内への削減を求める一律の指導が行われていました。

各事業場で労使が36協定を締結し、所轄の労基に提出をすることで、使用者は労働者に残業を命じることができますが、残業は月45時間以内かつ年360時間以内とする必要があります。36協定内に特別条項を盛り込んだ場合は、月45時間超を年に6回まで命じたり、年360時間超も可能になります。しかしながら、特別条項を盛り込んだ36協定を労基に出していても、月45時間超を1回でも労基から指導を受けることがありました。当社のお客さまでは一例のみ是正勧告、残りは指導票の指導がありました。今後は特別条項を盛り込んだ場合、このような月45時間超え1-6回の指導は無くなります。

変更内容2 月45時間超えの際の健康管理措置ができているかの指導が加わる

当社のお客さま以外では、残業月45時間超の者に対して、労基と約束した健康管理措置が実施されていないようです。早急に健康管理措置への対応が求められます。

労基に提出済みの36協定届の特別条項には必ず「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置(健康管理措置)」を記載しているはずです。事業者は労基署に対して「月45時間超の者に対して記載した健康管理措置を実施する約束をしたこと」になります。しかしながら、上述の通り、一部の事業者でこの健康管理措置は実施されていません。

健康管理措置の内容は以下の①ー⑩です。①ー⑩は36協定届の裏面に書かれており、事業者はこれらの数字の内容を選ぶ必要があります。
①労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること。具体的な対策案:残業45時間超の者に対して産業医面談を実施する。
②労働基準法第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を1箇月について一定回数以内とすること。具体的な対策案:労働基準法第37条第4項に規定する時刻は午後10時から午前5時までのこと。午後10時以降の労働を週に1回以内とする。
③終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること。具体的な対策案:いわゆる努力義務となっているインターバル勤務のことであり、家での睡眠時間を確保できれば心身の健康を守りやすくなるというエビデンスが背景にある。諸外国では自宅での睡眠時間の確保のためインターバルを11時間で設定することが多く、退社から11時間以上あけて出社する。一部の企業ではインターバルを9時間としているが、都内では通勤時間が往復3時間程度かかる者が散見されるため、9時間だと十分に睡眠時間を確保できないため推奨しない。
④労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること。具体的な対策案:残業45時間超の者に対して、当該月もしくは翌月に1日の特別休暇を付与する。
⑤労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること。具体的な対策案:残業45時間超の者に対して産業医面談を行い、体調不良があれば速やかに健康診断を実施させる。
⑥年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること。具体的な対策案:8月、12月を有給休暇取得推奨月とし、土日を含めて5連休を積極的に取得する活動を行う。
⑦心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること。具体的な対策案:45時間を超えた者に対して、人事労務担当・上司が相談窓口を案内する。
⑧労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること。具体的な対策案:45時間を超えた者に対して、人事労務担当・上司が面談を行い、健康上問題があれば異動させる。
⑨必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、又は労働者に産業医等による保健指導を受けさせること。具体的な対策案:45時間を超えた者に対して、産業医面談を実施する。
⑩その他。具体的な対策案:ノー残業デイ、時間単位の有給休暇制度などを設ける。

厚労省のWEBにある36協定特別条項の見本だと、P.3の表の下から2行目にある「限度時間を超えて労働させる労働者に対する健康及び福祉を確保するための措置」に①③⑩という数字と、具体的な実施内容が書かれており、これらを実施することになります。

従前から健康管理措置の内容を毎月実施する義務がありましたが、知りうる限りで今まではこの内容を実施したかについての指導はありませんでした。2026年9月以降は月45時間を超えた者に対して毎月この数字の内容を実施しているかについての指導が行われます。労基から「メールなどで履歴を残すように」との意見がありました。労基は臨検時に「エビデンスを出せ」と言ってくることが多いです。事業者は労基対策として「毎月この内容を実施し、メール、書面などの履歴を残す」ことが必要になります。

運用面で①-⑩の中で一番簡単なのは⑦心とからだの健康問題についての相談窓口を設置することです。相談窓口を設置して、一度だけ社員全員に周知することをもって、⑦の文章の内容を履行していると解することはできるかもしれません。しかしながら、「当該月の残業による体調の確認をする」という本旨からずれており、窓口を一度だけ周知するだけでは不適切です。現実的には「毎月、人事労務・直属の管理監督者・衛生管理者などが、月に45時間を超えた者に対して、メールや書面で、「時間外労働が多い者に対しての体調や業務の相談窓口は○○ですので気軽に相談してください」などと伝える」ことが必要です。

他は何も変わらない

Yahoo!やXには「残業させ放題」「労基法の改悪」「過労死が増える」などと書かれていますが、論点はずれています。労働基準法の月100時間、複数平均月80時間、年720時間といった規制は変わらず、特別条項を適用する条件は「突発、臨時、予期できない」といった理由が必要です。労災保険法の認定基準(月45時間で心筋梗塞・脳卒中、月80時間でうつ病の労災が認定される可能性が出てくる)、労働安全衛生法の産業医面談の基準(月80時間&本人希望)などは全く変わっていません。残業時間による健康への影響は個体差があるため、健康及び福祉を確保するための措置を重視した姿勢は評価できるものです。

他にも一部の事業者では対応できていませんが、下記の内容の履行は今後も必要ですし、労基の指導が散見される内容でもあります。
管理監督者も含めて全ての労働者は全員打刻する。
労働時間の状況(出勤時刻から退勤時刻)と労働時間(始業時刻から終業時刻)にズレがある場合は調査および対応をする。
残業月45時間を超える前に労働者代表に対して事前の申し入れもしくは事前の協議を行う。
残業月45時間を超えた場合には残業を減らすための方策を作り、実施する。

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