衛生管理の知識

常時労働者50人以上の定義

事業場の労働者が50名以上になると、衛生委員会の設置、産業医や衛生管理者の選任が義務となります。この「労働者50名以上」について、どの労働者を含めるか迷われるお客さまが多いと思います。常時働く労働者のみを含めることになりますが、「常時」とは「雇用形態や1日あたりの労働時間に関係なく、定期的に1年以上勤務する者」と考えると分かりやすいです。

なお、産業医の選任などは50名以上で義務となりますが、50名未満でも実施すべき事項がいくつかあります。

労働安全衛生法施行令

労働安全衛生法施行令には「常時五十人以上の労働者」という条文が複数あります。では、この「常時五十人以上の労働者」とは具体的にどのような意味でしょうか。

(安全管理者を選任すべき事業場)第三条 法第十一条第一項の政令で定める業種及び規模の事業場は、前条第一号又は第二号に掲げる業種の事業場で、常時五十人以上の労働者を使用するものとする。

(衛生管理者を選任すべき事業場)第四条 法第十二条第一項の政令で定める規模の事業場は、常時五十人以上の労働者を使用する事業場とする。

(産業医を選任すべき事業場)第五条 法第十三条第一項の政令で定める規模の事業場は、常時五十人以上の労働者を使用する事業場とする。

(衛生委員会を設けるべき事業場)第九条 法第十八条第一項の政令で定める規模の事業場は、常時五十人以上の労働者を使用する事業場とする。

「常時」とは

「常時」とは「雇用形態や1日あたりの労働時間に関係なく、定期的に1年以上勤務する者」を指します。

雇用形態は問いません。正社員、契約社員、パートタイマーなどの臨時的労働者も含めます。派遣社員は派遣先・派遣元の双方において労働者数に算入します。ただし、業務委託契約など雇用契約のない者は含めません。

1日あたりの労働時間も問いません。1日8時間のフルタイム勤務でも、1日1時間のパート勤務でも、該当すれば労働者として算入します。

「定期的」とは週1回以上勤務することを指します。月1回、数ヶ月に1回、年1回など勤務頻度が低い者は含める必要はありません。また、不定期勤務者や繁忙期など一時的に雇用する労働者も含めません。

時短勤務の者を0.5人換算にはできない

労働時間や雇用期間により0.5人などに換算することはできません。「常時」に該当すれば1日2時間勤務でも1人としてカウントします。

常時の労働者に該当しますか?

① 週1日勤務で1年以上の勤務が見込まれる者

常時使用する労働者に該当します。

② 週5日・1日4時間勤務で1年以上の勤務が見込まれる者

常時使用する労働者に該当します。

③ 派遣社員で1年以上の勤務が見込まれる者

派遣先・派遣元のいずれにおいても常時使用する労働者に該当します。

産業医の選任が必要な事業場ですか?

① 正社員11人、週1日・1日8時間勤務の1年以上勤務見込みのアルバイトが200人

常時使用する労働者は11人+200人=211人であり、産業医の選任が必要です。

② 正社員11人、週1日・1日8時間勤務の契約期間4か月のアルバイトが200人

常時使用する労働者は11人であり、産業医の選任は不要です。

③ 正社員11人、週5日・1日8時間の業務委託で1年以上勤務見込みの者200人

常時使用する労働者は11人であり、産業医の選任は不要です。

常時50人以上の労働者を使用する事業場ですべきこと

  • 産業医の選任
    労働者が50人以上になってから14日以内に産業医を選任し、労働基準監督署へ届け出る義務があります。産業医の資格を有する者(日本医師会認定産業医が一般的ですが、この資格は座学で取得できます。安全衛生についての試験に合格する必要がある労働衛生コンサルタントの保有者を選任することが望ましい)を選任します。
  • 衛生管理者の選任
    労働者が50人以上になってから14日以内に衛生管理者を選任し、労働基準監督署へ届け出ます。試験に合格して資格を有する者(ほとんどが第一種衛生管理者、第二種衛生管理者)を選任します。
  • 安全管理者の選任(一部業種のみ)
    林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業では、労働者が50人以上になってから14日以内に安全管理者を選任し、労働基準監督署へ届け出ます。一定の学歴、業務歴がある者を選任することができますが、安全への知識を得るために講習会への参加をした者を選任することが望ましいです。
  • 衛生委員会・安全衛生委員会の実施
    全ての事業場において、労働者が50人以上になってから衛生委員会を、安全管理者を選任する必要がある業種では安全衛生委員会を実施します。労働災害を含めた安全、衛生、健康についての取り組みは労使が一体となって行う必要があります。委員会では労働者の危険又は健康障害を防止するために厚労省が定めた事柄などを審議します。
    委員の構成は①総括安全衛生管理者又は事業の実施を統括管理する者等(1名)、②衛生管理者※、③安全管理者(一部の業種)※、④産業医※、⑤労働者(衛生に関する経験を有する者が理想だが、いない場合は誰でもいい)※となります。※の半数以上は労働組合もしくは労働者代表の推薦に基づいて指名します(委員会に参加する委員の一定割合は労働者側となり、使用者のみでの委員会の実施は不適切)。なお、委員会への委員の参加義務はないため、産業医は隔月の参加でも問題ありません。オンラインでの実施も可能です。
    調査審議事項は労働者の危険及び健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること、労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること、労働災害の原因及び再発防止対策で、安全衛生に係るものに関すること、安全衛生に関する規程の作成に関すること、有害物質の危険性又は有害性等の調査及びその結果に基づき講ずる措置のうち、安全衛生に関すること、安全衛生に関する計画の作成、実施、評価及び改善に関すること、安全衛生教育の実施計画の作成に関すること、有害物質の有害性の調査並びにその結果に対する対策の樹立に関すること、有害物質の作業環境測定の結果及びその結果の評価に基づく対策の樹立に関すること、健康診断などの結果並びにその結果に対する対策の樹立に関すること、労働者の健康の保持増進を図るため必要な措置の実施計画の作成に関すること、長時間にわたる労働による労働者の健康障害の防止を図るための対策の樹立に関すること、労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること、リスクアセスメントに関することなどを審議することが求められます。事業者や産業医が興味関心のある、時間外労働やメンタルヘルスについてだけを審議することは不適切です。当社のお客さまには厚労省が審議すべきテーマ、健康経営優良法人の資格の要件となるテーマについての資料を無料で提供しています。
    毎月一回以上開催し、委員会の議事録を労働者に周知し、3年間保存する義務があります。就業規則と同じ場所に置かれていることが一般的です。
  • 健康診断結果の労働基準監督署への届け出
    労働者が50人以上の事業場では、年1回以上健康診断を実施し、その結果を集計して労働基準監督署へ届け出る義務があります。健康診断を実施後は健康診断の結果を産業医に見せ、産業医から就業区分判定をもらう義務もあります。
  • ストレスチェックの実施と届け出
    労働者が50人以上の事業場では、年1回以上ストレスチェックを実施し、結果を労働基準監督署へ届け出る義務があります。高ストレス者が産業医面談を希望した場合は、面談を実施する義務もあります。
  • 休養室・休養所の設置
    労働者が50人以上、または女性労働者が30人以上の事業場では、男女別に休養室または休養所を設ける義務があります。男女別、遮蔽、臥床、労働者が休養できる場所として認識していることが要件です。

常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場ですべきこと

  • 安全衛生推進者または衛生推進者の選任
    一定の業種では安全衛生推進者、その他の業種では衛生推進者を選任します。労働基準監督署への届け出は不要です。衛生管理者と異なり、試験を受検する必要はありません。一定の学歴、業務歴がある者を選任することができますが、安全衛生への知識を得るために講習会への参加をした者を選任することが望ましいです。
  • 産業医との契約
    50名未満の事業場では産業医の選任義務はありませんが、健康診断を実施後は健康診断の結果を医師に見せ、この医師から就業区分判定をもらう義務があります。
  • 安全衛生懇談会の実施
    安全衛生委員会や衛生委員会の実施義務はありませんが、労使が安全・衛生・健康に関する事項について、労働者の意見を聴くための機会を設ける義務があります。安全衛生委員会や衛生委員会と同様に議事録を残すことが求められます。

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