ストレスチェックに独自の質問を加えるメリットとデメリット
ストレスチェックには「仕事のストレス原因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の3領域の質問を含める必要があります。厚労省はこの3つを評価するため、57問もしくは23問の調査票を例示しており、ほとんどの企業はこの57問を採用してストレスチェックを実施しています。
企業によっては57問以外に独自の質問を加えています。メリットとして健康管理や職場管理がしやすくなります。デメリットとしてメンタル不調ではないにも関わらず受検者を不安にさせてしまったり、必要以上の情報を会社が得てしまうことがあります。デメリットが生じないように産業医にアドバイスを求め、衛生委員会で審議をしてください。
ストレスチェックとは
2015年12月から労働者が50名以上の事業場で義務となりました。第14次労働災害防止計画(2023年4月から2028年3月の労基署の企業への指導計画と考えてもよい)には「小規模事業場におけるメンタルヘルス対策の取組は低調」と書かれており、労働者が10~49名の事業場でもストレスチェックを行うことが望ましく、当社でも小規模のストレスチェックを支援する機会が増えています。
会社が労働者にストレスチェックの機会を提供することが義務ですが、労働者が受検する義務はありません。企業によっては受検率が50%未満ということもあり得ますが、受検者数が極めて少ないと実施する意味が無くなるため、受けやすい仕組みを構築することが大切です。ストレスチェックと異なり、健康診断は労働者は受検する義務があるため受検率100%が一般的です(健康経営優良法人を取得する際には健診の実質100%受検が求められます)。
ストレスチェックはうつ病、適応障害、パニック障害などの病気を発見することを目的としていません。労働者が自分のストレスの状態を知ることで、ストレスをためないように対処したり、ストレスが高い状態の場合は産業医の指導を受けてストレスを緩和したり、会社に業務の軽減をしてもらうことで職場の改善につなげることを目的としており、うつ病などのメンタルヘルス不調を未然に防止するためのツールです。
ストレスチェックの質問内容
ストレスチェックには労働安全衛生規則52条の9第1項第1号から3号までに規定する3つの領域である「仕事のストレス原因」「心身のストレス反応」「周囲のサポート」の質問を含める必要があります。この3つの領域が含まれているものであれば、衛生委員会での調査審議を踏まえて自由に選択することができます。厚労省はこの3つを評価するため、57問もしくは23問の調査票を例示しており、厚労省は57問(職業性ストレス簡易調査票)を用いることが望ましいと述べており、ほとんどの企業はこの57問を採用してストレスチェックを実施しています。受検者は「時間内に仕事が処理しきれない」という問いに対して、そうだ、まあそうだ、ややちがう、ちがうという4段階の回答をすることになります。
ストレスチェックの高ストレス者とは
「心身のストレス反応」のスコアが著しく悪い者(体調が著しく悪いと回答した者)と、「仕事のストレス原因」と「周囲のサポート」のスコアが悪いと回答し、かつ「心身のストレス反応」のスコアが悪いと回答した者(業務や人間関係のストレスがあり、体調が悪い者)が該当します。全国平均で上位10%以上の者を高ストレス者とすることが一般的ですが、企業によってはこの閾値を変更することができます。高ストレス者とありますが、前者の場合は業務や人間関係にストレスが無くても、体調が悪い場合は高ストレス者になってしまいます。例えば職場のストレスが無い癌の患者さんの場合、癌により心身の不調が認められた場合は高ストレス者になることがあります(職場に高ストレスは無いが、高ストレス者とされてしまう)。
高ストレス者で産業医面談を希望した場合、面談希望日から1ヶ月以内に産業医面談の機会を実施する必要があります。ストレスに関する産業医面談のため、精神科専門医を持つ産業医による面談が望ましいです。
ストレスチェックは自記式試験であり、本人が結果を良くも悪くも恣意的に作ることができます。高ストレス者は心身に問題があるとはいえないことを理解しておく必要があります。
質問を加える前に衛生委員会・安全衛生委員会で審議を
衛生委員会でストレスチェックについて毎年審議をする必要があり、議事録に残さないと労基署の臨検で指導をされることがあります。審議内容は質問内容、対象者、実施時期、高ストレス者の選出方法、面談はどの産業医にするか、 集団分析どの方法で行うか、ストレスチェックの結果の保存方法などです。質問内容についても審議する必要があるため、衛生委員会で57問以外に質問を加えるメリットとデメリットを労使で議論する必要があります。
質問を加えるメリット
- 労働者 健康に関する情報が多く得られます。現在の体調やストレスをより詳しく知ることができるため、セルフケアを行いやすくなります。
- 会社 職場の課題をより詳しく見える化することができます。労働者の本音を理解したり、人事施策に問題があることを把握できたり、組織の強みと課題を把握しやすくなります。
質問を加えるデメリット
- 労働者 SDS(Self-rating Depression Scal、自己評価式抑うつ性尺度)、CES-D(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale、うつ病自己評価尺度)は心療内科の外来で用いるうつ状態の精査ツールです。これらの自記式検査をストレスチェックに加える会社やストレスチェック代行業者があります。これらの検査では得点が高い場合は「抑うつ状態の疑い」と判断するため、ストレスチェックの結果で高ストレス者ではない人、明らかにメンタルに問題がない人の結果用紙「高度抑うつ状態です。すぐに医師に相談してください。難しい場合は、家族や友人などに助けを求めましょう。」などと書かれ、本人がびっくりすることがあります。メンタルクリニックでの外来時にも、産業医面談時にもこのような事例を何度も経験してます。
- 会社 実施事務従事者以外、会社は個人の結果を知ることはできませんが、組織分析の結果は個人情報では無いため会社が必要以上の情報を得てしまうことがあります。上述の通り、どのような質問を採用するかは衛生委員会で審議する必要があり、審議せずに多くの質問を加えた場合はトラブルになる可能性があります。
実施時期が繁忙期だと質問数が多いほど適当に回答をする可能性が高くなるため正確な結果が出にくくなります。受検ができずに本人が現在の状況を知ることができない可能性も高くなります。
実施時期が繁忙期だと不正確な回答が多くなったり、受検しない者が増えることがあり、職場分析をきちんと行えないことがあります。
ストレスチェックで困ったら産業医へ相談を
ストレスチェックは実施して終わりではありません。セルフケアにつなげる仕組み、高ストレス者を医面談を受けやすくなるような雰囲気、職場分析をどのよう行うかや職場分析を実際に行うことへのアドバイスについて産業医が関わることが大切です。
当社はストレスチェック業務を多くの企業からご依頼いただいております。高ストレス者の産業医面談だけでなく、長時間労働医師に対する面接指導も承っております。困ったことがあれば当社へご連絡ください。