笑いはこころの薬
笑うことでメンタルヘルスの状態を改善することができます。気持ちが落ち込んでいる、意欲が出ない、寝られない、不安が強いなら、笑うことを試してみませんか?笑いはメンタルだけでなく免疫力を高めることもできます。コロナ禍の今だからこそ、笑いを大切にしてみませんか?笑ってうつもコロナも吹き飛ばしましょう。
こころの病気は増えている
最新の患者調査(2018年版)によると気分障害(うつ病が含まれる)は1999年44.1万人、年2008年104.1万人、2017年127.6万人と増加傾向にあります。神経症(パニック障害や適応障害が含まれる)も同様に増加傾向にあり、誰もがこころの病気に罹患する可能性があります。気分障害は64歳までが全体の約70%、神経症は約75%です。残念ながら20歳から54歳までの死因では自殺がTOP3に入っている状態が続いています。これらの状況から企業でのメンタルヘルス対策は必須で、精神科専門医が産業医を担う必要性が高まっています。
厚労省WEBサイトより
産業医復帰後の定着は笑いが重要
産業医の業務に「不調者の職場復帰面談」があります。法定では義務とされていませんが、労働者数に関係なく、ほとんどの企業で不調者が職場復帰をする際に、主治医から復帰可能と書かれた診断書が提出された後に産業医面談が実施されます。
主治医は不調者が職場でどのように働いているかや就業規則などを十分に知ることができないため、日常生活をある程度問題なくこなせていれば「復帰可能」と判断をします。産業医は主治医と同様に面談を通じて医学的に体調を把握できる上に、定期的に職場を巡視したり、企業のルールを知っているため、より適切に体調を精査することができます。産業医面談時に明らかに就業に耐えられない体調と判断した場合は、産業医は「復帰不可」と意見をすることがあります。厚労省は職場復帰支援の手引きで「主治医の診断日常生活における病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、必ずしも職場で求められる業務遂行能力まで回復している判断とは限らない。業務遂行能力の内容などについて産業医が精査した上で意見を述べることが重要」との旨を述べています。
私は産業医面談時に心身の状態について様々な角度で質問をします。「最近笑うことがあったか」「以前と同様に笑ったり、楽しめているか」「趣味や興味があることを取り組めているか」という質問に「はい」と答えられる場合や、面談中に笑顔(特に体調不良の原因について話してもう際に笑顔が認められる時)、冗談、雑談が認められる場合は高評価としています。産業医、精神科専門医としての外来での経験から、笑いが表出される場合にはメンタルが回復している可能性が高く、職場復帰後の定着が良いことを何度も経験しているからです。私は精神科専門医の産業医として「笑い」を重視しています。
笑いでストレスホルモンを減らせる
大阪府立健康科学センターの研究です。うつ病の患者はストレスホルモンであるコルチゾル(コルチゾールともいう)が高いことが知られています。お笑いを聞く前後で唾液に含まれるコルチゾルの変化が調べられました。お笑いを聞いた後のコルチゾルは半減していました。特に女性、以前から落語を聞いている人、いつも笑っている人でこの傾向が目立ちました。
笑いでうつや不眠を減らせる
吉野慎一先生の研究です。慢性関節リウマチは自己免疫の異常で、本人の免疫が本人の体を攻撃する疾患です。患者に落語を聞かせてた前後で痛みの変化が調べられました。
落語を聞いた後は炎症を示すインターロイキン6(IL-6)が顕著に低下していました。一部の患者では正常値になっていました。
間接リウマチのうつ病の合併率は16.8%との報告、IL-6が低い群と高い群を比較すると、前者は抑うつ症状・睡眠障害が有意に多いとの報告があります。これらから笑いでIL-6が下がり、リウマチ、うつ、不眠を改善できる可能性があるといえます。
笑いは運動と同様の効果がある
笑いと健康の本(昇幹夫先生)にある米国笑い療法研究学会の研究です。笑うことによるバイタルサインの変化が調べられました。大笑いをした後は心拍数は60から120回/分程度まで、血圧は120から200mmHg近くまで上昇しました。呼吸は浅く、早くなりました。
自律神経は交換神経と副交感神経でできています。笑いにより交換神経が活発になり、このような心拍数や血圧などへの効果が認められます。笑い終わると筋肉の緊張が解消し、心拍数と血圧は徐々に下がり元に戻ります。呼吸は深い呼吸となり、血中酸素濃度が高くなります。運動はメンタルヘルスへ良い影響を与えることはご存じの通りです。笑った後の結果は心地よい運動後の状態と同様の現象であり、笑いによってストレスを解消させるといえます。
笑いは良い心理状態を作る
同様に笑いと健康からのものです。脳にはβエンドルフィンという神経物質があり、これは鎮痛作用を持っています。マラソンをしている際にはこれが上昇し、ランナーズハイという状態になることがあります。笑った後にβエンドルフィンの増加が認められ、ランナーズハイのような心地よい心理状態になることができます。脳は部位毎に役割が異なっており、右脳は情緒、左脳は論理と関係しています。笑いの中枢は右脳で、情緒と関係するため、笑うことで同様に良い心理状態を作ることができます。
笑いとNK細胞
笑うとNK細胞が増え、免疫力が強くなります。慢性間接リウマチを含む自己免疫疾患、癌などの慢性疾患には免疫が関係しており、これらには少なからずNK細胞が影響しています。慢性疾患にはうつ病などのメンタル不調を高頻度で合併します。上述の通り、うつ病ではコルチゾルが増えます。コルチゾルはステロイドの一種です。コルチゾルは免疫力を下げるため、うつ病でコルチゾルが増加すると免疫力が下がり、癌などが悪化する可能性があります。
うつ病ではナチュラルキラー細胞の減少があると報告されています。笑うことでNK細胞が活性化されることは癌の予防だけでなく、うつ病の改善にもつながるといえます。もちろんコロナは免疫力が低くなると感染しやすくなるため、笑うことはコロナの予防にもなります。
笑いは劇場がおすすめ
劇場で見るお笑いはテレビと異なります。劇場は非日常空間であり、家でお笑いを見るよりもアドレナリンやドパミンがたくさん出ます。ストレスを発散させたい、落ち込んだ気持ちを回復させたい場合は会社に帰り道に劇場に足を運んでください。
知っている芸人が少なくても、知らない芸人がたくさん笑わせてくれます。オール阪神・巨人さんのしゃべくり漫才を見ると老若男女、誰でも大爆笑間違いなしです。あっと言う間に時間が過ぎ、気持ちがすっきりします。劇場で周囲のお客さんを見てください、大トリが終わる際には全員が笑顔で帰路につくはずで、もちろんあなたもその一人です。
こころの健康は吐き出すことが基本
笑う以外にもストレスを発散させることができ、吐き出すことが基本です。メンタルヘルスの専門医に相談する、日記を書く、家族や友達に話すとった方法は簡単にできます。国や自治体は電話相談窓口を持っており、24時間いつでも相談することができます。企業で働いている方でメンタル面で困ったことがあれば気軽に産業医に相談をしてください。
もしこころに余裕ができればあなたも聞き手になってください。聞き手(笑わせ役)になることで、誰かのメンタルの状態を回復させることができます。聞き手の立場になると、同じ人に話し続けられることで聞き手が疲弊することを理解することもできます。