衛生管理の知識

ノロウイルスによる食中毒とウイルス性腸炎

ノロウイルスは感染力が非常に強く、時に激しい下痢や嘔吐が続き、小児や高齢者では重症化することがあります。
ノロウイルスのようにウイルスが原因の食中毒では抗生剤の効果はありません。
同じウイルス性食中毒のA型肝炎ウイルスはワクチンで予防することができますが、ノロウイルスはワクチンで予防することができません。
冬期に発生することが多い食中毒ですが、夏期に牡蠣を食べて発生することがあります。
幼稚園、保育園、老人施設、病院などでノロウイルスが発生した場合、吐瀉物や下痢便の処理を誤ると、集団発生につながることがあります。
飲食店の従業員がノロウイルスに罹患していると、提供した食品を通じて感染が広がることがあります。
ノロウイルスの流行期(冬)に、ウイルス性腸炎という診断書が出された場合には、ノロウイルスによる腸炎と考え、休ませて下さい。

症状

主な症状は激しい消化器症状です。症状は数日しか続きません。
  • 潜伏期は1~2日
  • その後に、健康な大人でもぐったりする程の著しい症状
  • 嘔吐、吐き気、激しい下痢、腹痛
  • 発症から3日以内に回復

原因

食中毒としてウイルスが含まれる牡蠣を食べて感染する場合と、二次感染としてノロウイルス感染者の吐瀉物や大便の処理をした際に感染する場合があります。
下痢や嘔吐が治まった後も、1ヶ月程度大便にウイルスを排泄し続けることがあり、職場内や家庭内でノロウイルスが長期間、多発することがあります。
  • ノロウイルスに汚染された生の二枚貝(牡蠣など)
  • ノロウイルスで汚染された人の手や、包丁などで調理した食品
  • ノロウイルスに罹患した人の便や吐瀉物

予防

食中毒対策と、二次感染対策に分けて考えます。ノロウイルスはアルコールに対する耐性があり、アルコール消毒は無効です。次亜塩素酸ナトリウムで消毒を行います。取っ手などの金属を次亜塩素酸ナトリウムで消毒すると腐食するため、次亜塩素酸ナトリウムで消毒したらすみやかに水拭きをして下さい。

食中毒対策

  • 生食を避ける。生食をする際には食べる量を減らす
  • 中心まで十分に加熱(食品の中心部が85~90℃で90秒間以上の加熱)
  • 新鮮なものを購入し、冷蔵庫に入れて保存し、早めに食べる
  • 二枚貝を触ったら、よく手を洗う
  • 生の二枚貝用の包丁とまな板を用意し、他の食品ではこれらを利用しない
  • 調理器具は次亜塩素酸ナトリウムで消毒する

二次感染対策

  • ノロウイルスにかかった人の吐瀉物や便を処理する際にはマスク、手袋、エプロンなどで防護し、密閉した状態で破棄する
  • ノロウイルスで汚染された床は次亜塩素酸ナトリウムで消毒する。アルコールは無効
  • ノロウイルスで汚染された衣類は次亜塩素酸ナトリウムで消毒するか、破棄する
  • ノロウイルスの流行時期に下痢や嘔吐がある場合には通勤しない
  • トイレを清掃する際も次亜塩素酸ナトリウムを用いる

治療

ウィルスによる感染症のため、抗生物質は効きません。
対症療法を行います。

幼稚園や保育園、医療福祉施設、調理従事者は、ノロウイルスの流行期(冬期)に、嘔吐、吐き気、下痢、腹痛、発熱といった症状があれば、仕事を休んで下さい。それ以外の業種でも休むことが望ましいです。
消毒はアルコールではなく、次亜塩素酸ナトリウムを利用します。

医療機関での検査

インフルエンザウイルスのように、ノロウイルスも迅速検査(ノロウイルスの抗原定性検査)を行えます。ノロウイルスの検査は健康保険についての制約があるため、全ての患者さまで行うことはできません。ノロウイルスの検査を行わずに、臨床経過と病状から「ノロウイルスによる腸炎」と診断することが多いです。

ウイルス腸炎とノロウイルスによる腸炎

ウイルス性腸炎はウイルスが原因の腸炎です。ノロウイルス、アデノウイルス、ロタウイルスなどが原因です。ノロウイルスによる腸炎はウイルス性腸炎に含まれます。
ウイルス性腸炎という診断書が会社に提出される機会は頻繁です。ノロウイルスの流行期はウイルス性腸炎という病名をノロウイルスによる腸炎と考えて下さい。ウイルス性腸炎だから出勤してよいという判断をすると、感染者が職場で下痢や嘔吐をした場合に、職場でノロウイルスによる集団感染が起こることがあります。

胃腸炎と腸炎

胃腸炎と腸炎は胃の症状があるかどうかです。下痢に加えて吐き気や嘔吐がある場合には胃腸炎、下痢だけの場合は腸炎です。

冬にウイルス性胃腸炎やウイルス性腸炎という診断書が出された場合はノロウイルスを必ず疑って下さい。