衛生管理の知識

スメルハラスメント

ハラスメントは加害者の意図に関係なく、被害者に不快、不利益、被害を与えることです。被害者には言動を受けた人だけでなく、その周囲の人も含みます。
セクシャルハラスメント、パワーハラスメントは一般的な言葉として用いられるようになりました。これらがある世の中は不快なものですが、多かれすくなかれ我々の周りにも存在します。
最近は、職場での口臭、体臭、香水などのにおいに関する悩みを持つ方が増えているようです。においに関してのハラスメントをスメルハラスメントといいます。

スメルハラスメントとは

スメルハラスメントは、においにより周囲を不快にさせるハラスメントです。
においを発する本人がにおいに気づいていないことが多くいです。これはパワーハラスメント、セクシャルハラスメントと同様ですが、スメルハラスメントはより本人の自覚が低い印象です。
企業によってはパワーハラスメントやセクシャルハラスメントは許さないという企業倫理を定めたり、経営者がハラスメントの撲滅が表明をして、ハラスメントを防いでいます。スメルハラスメントではこのような対応をし難く、「周囲へ配慮をする」という考えを皆が共有することが大切となります。
昨今は当社にスメルハラスメントについてのご相談が寄せられることが増えています。

スメルハラスメントの特徴

  • 本人は良いにおいと感じていることがある
  • 本人はにおいが周囲に不快感であることに気がついていないことが多い
  • 地域・社会・文化的には許容されるにおいがある
  • においの感じ方には個人差がある
  • 他のハラスメントより、周囲が注意し難い
  • 職場で、同僚は他人のにおいから逃げられない
  • セクハラ、パワハラは一時的な場合があるが、スメハラは常に周囲へ影響を及ぼす
  • 社外からは茶髪、ピアス、つけ爪といった身だしなみと同様に、においについても悪い評価を受ける可能性がある
  • 職場環境ににおいの原因があることがある

スメルハラスメントの分類・原因

当社ではスメルハラスメントを体質によるにおい、趣味や嗜好によるにおい、職場環境によるにおいの3つに分類しています。 体質によるにおいは、趣味嗜好や職場環境によるにおいよりも対策が困難です。

体質によるにおい

  • 口臭
  • 体臭(口臭以外の体のにおい) など

趣味や嗜好によるにおい

  • たばこ
  • アルコール(二日酔い)
  • 整髪料
  • 香水
  • 柔軟剤
  • 食品(弁当、菓子など) など

職場環境によるにおい

  • 喫煙専用室が近い
  • 冷蔵庫や設備がにおう
  • 糞便を扱う
  • 食品を扱う
  • 大通りに面している
  • 有機溶剤などを取り扱っている など

職場でのスメルハラスメントへの対応

職場環境の調整を行った後に、においの原因となる従業員に対応をすることが好ましいです。

職場環境の調整をする

職場環境の調整により、職場環境によるにおいの場合は根本的な対応が可能な場合があります。一方、体質や趣味嗜好によるにおいの場合は本人の協力が必要なため、環境の調整が根本的な対応とはなりません。
部署や座席を変える、座席をフリーアドレスにする、窓を開ける、空気清浄機を導入する、消臭剤を利用する、喫煙室の場所を変える、職場を禁煙にする、職場環境を清潔にすることなどで対応をします。
朝礼や会議の中で、「お客さまからたばこのにおいについて苦言があったため、喫煙者は配慮しましょう」、「お客さまから香水や柔軟剤のにおいがきついと苦情がありました。本人は気がつかないことがありますが、周囲にとっては不快な場合もあります」、「食後には歯磨きをしましょう」などと人事労務担当や上司が発言することも効果的です。
洗面所にデンタルリンスや制汗シートを置く、食事は食堂や会議室に限定する、社内報や社内掲示物でスメルハラスメントを取り上げることなどをお客さまにアドバイスをしたこともあります。

衛生委員会など審議する

パワーハラスメントなどと同様に衛生委員会や管理職会議でスメルハラスメントについて審議をします。審議した内容を議事録や社内報とし社員へ周知します。その際には当事者のプライバシーを配慮することが大切です。
衛生委員会の議事録は従業員が見られる場所に置いて保存するため、従業員の多くがスメルハラスメントについて情報を得る良い機会になります。

窓口、担当者は上司ではなく人事労務担当

他のハラスメントと同様に、ハラスメントを受けた従業員だけでなく、ハラスメントを見聞きした従業員が気軽に人事労務担当に相談できる体制を構築して下さい。
人事労務担当はにおいの原因の方と、そのにおいを不快に感じる方に対して中立です。上司よりも人事労務担当が本人に接したほうが職場の人間関係におけるトラブルが生じにくいです。
上司がにおいについて指摘すると、においの原因の方は上司の主観的な意見としてとらえられるようです。上司自体がにおいに対して不快に感じている場合は、上司が指摘する際に感情的になってしまうこともあり、組織に感情的なしこりを残すことがあるようです。

本人に指摘する際の注意事項

においの原因となる従業員の人格やプライバシーを配慮することが一番大切です。もちろん、においについて相談をした従業員に対しても同様です。
指摘をする際にはできればにおいの原因の方と人事労務担当が会議室などで面談を行います。
相談者のプライバシーを配慮した上で、「においについて相談があった」ということを伝えます。
場合によっては「たばこを減らしてみては」などとアドバイスを行いますが、命令や強制を強いるとその行為がハラスメントになる可能性があります。
においの感じ方はそれぞれ異なりますし、同様ににおいを発する方もそれぞれの体質や考えがあります。あくまで多様性を理解した上で、各々を尊重して対応する必要があります。
体質はすぐに変えられず、趣味嗜好についても長年の生活を考慮すると中々改善しにくい場合があります。

それぞれのにおいの対策

体質によるにおい

口臭

  • 食後の歯磨きを励行、場合によってはリステリン®などを食後や喫煙後に利用
  • 禁煙を検討
  • 食べ物は栄養バランスを考えて選び、においがきつい食べ物を制限
  • 歯科や内科への通院

体臭(口臭以外の体のにおい)

  • 毎日の入浴
  • 禁煙を検討(たばこの煙が衣類に付着)
  • 汗をかいた時は制汗シートを使う
  • 無臭の制汗デオドラントを使う
  • 糖質制限ダイエット中ににおいを発することがあるため、極端なダイエットをしない

趣味嗜好によるにおい

たばこ

  • 禁煙や減煙を検討
  • 歯磨きを励行、場合によってはリステリン®などを喫煙後に利用
  • 風通しが良い場所で喫煙
  • 第三者ににおいについて尋ねる

アルコール

  • 大量に飲酒しない
  • 二日酔いで出勤しない(当たり前のことですが、忘年会や新年会の時期などで認められます)
アルコール依存症の方はアルコール臭を漂わせて出勤をすることが多いようです。繰り返し認められる場合はアルコール依存症を疑い、産業医面談の実施をお願いします。

整髪料

  • 整髪料を変更する
  • 整髪料の使用量を減らす

香水

  • 香水を変更する
  • 香水の使用量を減らす
  • 香水をつける場所を変える
  • 第三者ににおいについて尋ねる

柔軟剤

  • 柔軟剤を変更する
  • 柔軟剤の使用量を減らす、推奨量を守る
  • 洗濯機のすすぎ回数を1回増やす
  • 第三者ににおいについて尋ねる

食品(弁当、菓子など)

  • 食事をする場所を食堂と会議室に限定する
  • 食事の際には換気を行う
  • 社内での昼食の時間を限定する
  • においがきつい食べ物を制限する

職場環境によるにおい

喫煙室がある

  • 喫煙専用室の技術的基準を満たす(禁煙区域にたばこの煙が漏れない、禁煙区域から喫煙室への風速0.2m/s、排気装置で屋外に排気、粉じん濃度0.15mg/m3以下、一酸化炭素濃度10ppm以下など)
  • 喫煙室を無くし屋内を全面禁煙とする
  • 喫煙室の場所を変更する
  • 空気清浄機を設置する

冷蔵庫や設備がにおう

  • 定期的に洗浄(物理的に拭くだけでなく、洗剤を用いて化学的にも)を行う
  • 換気を行う

糞便を扱う

  • 作業場の換気を行う
  • 空気清浄機を設置する
  • 風上に立って作業を行う
  • 適切なマスクを利用する

食品を扱う

  • 作業場の換気を行う
  • 空気清浄機を設置する
  • 風上に立って作業を行う
  • 適切なマスクを利用する

大通りに面している

  • 空気清浄機を設置する
  • 作業場の換気は排気口を大通り側に、吸気口を反対側に設置する

有機溶剤などを取り扱っている

  • 有機溶剤の利用を中止する
  • 安全な物質に変更する
  • 発散減を密封する
  • 作業場の換気を行う(全体換気だけでなく局所排気装置も考慮)
  • 空気清浄機を設置する
  • 風上に立って作業を行う
  • 適切なマスクを利用する