衛生管理の知識

うつ病、うつ、うつ状態、抑うつ状態の違い

産業医としてメンタルヘルスの相談をたくさん受けていますが、「うつ」についての相談が一番多いです。「うつ病」、「うつ状態」、「抑うつ状態」と記載されている診断書を毎週拝見します。「うつ状態」、「抑うつ状態」は精神疾患ではない場合があるため、これらが書かれた診断書が出された場合は産業医による精査が求められます。
「うつ」という単語が含まれている医学用語は複数ありますが、「うつ病」と「うつ状態」や「抑うつ状態」は使い方が異なります。「うつ」に関する疾患や状態について解説します。
当社の代表産業医は産業医経験が豊富で、検察庁から精神鑑定業務を請け負っており、職場のメンタルヘルスの問題を適切に評価することができます。

うつ病の特徴

うつ病は心身の抑制が続くことを特徴とします。メンタルだけでなく、身体面でも抑制があります。うつ病は女性や若年者に多いとされていますが、性別や年齢に関係なく認められます。
うつ病の有病率について様々な研究がありますが、人口の約3〜7%と言われており、非常に頻度が高い病気です。
多くの職場でうつ病の方(うつ病だった方)が働いており、うつ病を職場で防ぐこと、うつ病の方が働きやすい環境を築くことが企業に求められています。

主要な症状は憂うつな気持ち、意欲の低下、興味や関心の喪失と言われています。
不眠、食欲の低下、倦怠感、胃痛などの身体的な症状を伴うことがあります。
原因の有無は問わず、症状は2週間以上持続します。

初期のうつ病では、食欲の低下、倦怠感、胃痛といった体の症状が認められることが多く、内科を受診することがあります。
内科で採血やX線などの検査を行っても原因がはっきりしなかったり、胃薬を投与されても効果が無い場合にはうつ病を疑います。
うつ病が慢性化すると、ベッド上から動けなくなり、何も考えられなくなり、気持ちだけでなく、身体的な影響が目立ちます。
うつ病は心だけの症状ではなく、行動ができなくなることがあります。

うつ病の症状や特徴

うつ病の症状や特徴は次の通りです。
  • 憂うつな気持ち、意欲の低下、興味や関心の喪失がある
  • 不眠、焦り、集中力の低下、食欲不振などの症状を伴うこともある
  • 原因の有無を問わない
  • 症状が2週間以上持続する
  • 日常生活に支障を及ぼしている
  • 生涯有病率は約10%

うつ病の診断

メンタルヘルスの病気はICD-10(世界保健機関が作成)、DSM-Ⅴ(米国精神医学会が作成)の診断基準を用いて診断します。
ICD-10の診断基準では、2週間以上、下記の症状が続く場合に「うつ病」と診断します。

● 以下のうち少なくとも2つがみられる
1)抑うつ気分
2)興味と喜びの喪失
3)易疲労感

● 加えて、以下のうち少なくとも2つがみられる
a)集中力と注意力の減退
b)自己評価と自信の低下
c)罪責感と無価値感
d)将来に対する希望のない悲観的な見方
e)自傷あるいは自殺の観念や行為
f)睡眠障害
g)食欲不振

操作的診断のメリット・デメリット

このような操作的(診断基準に当てはめるやり方)な診断は客観的に病気を診断する、診断を早く行える、統計で取り扱いやすくなるなどの点ではメリットです。
一方、慣れるまで診断をすることが難しい、今までに抑うつ神経症というストレスによる気持ちが落ち込んだ状態などについてもうつ病と診断されるようになる、診断基準の内容を医師に伝えらればうつ病と診断されることがある点ではデメリットかもしれません。

患者さんがうつ病の診断を求め、診断基準に掲載されている症状を述べることがあります。
メンタルヘルスの専門医は、本人の会話の内容だけでうつ病(他の精神疾患も同じ)と診断をすることはありません。
本人の口調、表情、生活水準なども鑑みて診断をするため、誤診の可能性は低いです。

「うつ状態」、「抑うつ状態」という病名。「うつ病」との違いについて

「うつ状態」、「抑うつ状態」は同じ意味ですが、「うつ病」と同じ意味ではありません。「うつ状態」や「抑うつ状態」は精神疾患ではない場合(病気ではない場合)にも診断書に記載されることがあり、産業医による精査が求められます。精神科医は「うつ」という単語を用いることはほとんどありません。
憂うつな気持ちがあることや、気分が落ち込んでいるなどの症状を抑うつ気分といい、「うつ状態」や「抑うつ状態」は抑うつ気分が強い状態のことです。
「抑うつ状態」という言葉よりも「うつ状態」という言葉ほうが日常生活でよく用いられますが、精神医学では「抑うつ状態」という用語を用いることが多いです。

気持ちの落ち込みが続くこと、抑うつ状態、は「うつ病」だけでなく、統合失調症、適応障害(ストレスにより、一時的に精神的に不安定になる病気)、認知症などの様々な精神疾患で認められます。メンタルヘルスの病気だけでなく、心筋梗塞、癌、関節リウマチといった身体疾患でも頻繁に認められます。
病気ではなくても、受験に落ちた、財布を無くしたといった日常の出来事で気持ちが落ち込むことがありますが、この状態も「うつ状態」、「抑うつ状態」と言えます。

「うつ病」の場合、上記の診断基準に1)抑うつ気分が記載されていますが、これは必須ではありません。
つまり、「抑うつ気分」があれば「うつ病」とは言えず、「うつ病」であっても「抑うつ気分」があるかどうかは患者さん次第です。

うつ病と労働災害

精神障害(精神疾患の行政用語)の労災支給件数は、平成29年で506件、うち自殺件数は98件で、年々これらの件数は増加傾向にあります。
職場での精神疾患の多くをうつ病が占めていると言われており、人事労務担当や管理監督者だけでなく、全ての労働者がうつ病に対しての知識を持つ必要があります。

職場での受け入れの際に配慮すること

うつ病の方の多くは日常生活に支障は無く、多くの方が就労されています。

職場の環境について、うつ病が軽快していれば他の労働者と同様に考えます。しかし、うつ病の症状が少しは残っている状態であれば環境調整などを実施する必要があります。
業務開始時刻がやや遅い、労働時間が比較的短い、業務量が多くない、高度なスキルを要しない、ある程度本人のペースで行える、人間関係で強い刺激を受けないといった作業は本人への精神的な負担が少ないです。
仕事がはかどらない場合には、職場の環境や同僚がきっかけになっている可能性があります。本人は抑うつ状態のため自ら話すことができない場合が多く、職場の上長(時に上長がストレスとなっている場合があり、人事労務担当者や産業医が担うことも検討)が週1回などの頻度で本人と話し合う機会を設け、本人が気になっていることを聴き、職場に問題があればそれを改善して下さい。

本人が「大丈夫です」、「困っていません」などの言葉を述べていても、本心ではない場合があります。うつ病は「職場に迷惑をかけて申し訳ない」という心理状態に陥りがちだからです。
上長(産業医や人事労務担当も同様)は本人との信頼関係を築き、言葉だけでなく業務の全体の様子(周囲を気にしている、ため息をついているなど)から、本人の気持ちをくみ取って下さい。

勤怠不良が目立つ場合には、出勤時刻を遅くする、労働時間を短くするなどの配慮を行って下さい。業務量や業務の難しさについても再考して下さい。
仕事中にあくびをしたり、昼寝をする場合には、夜に睡眠をとることができていない可能性があります。不眠や食欲不振といった生活リズムの乱れは体調の悪化につながります。体調が悪い場合は休ませたり、通院して主治医に相談するように伝えて下さい。通院の時間の確保、定期薬の服用も必要なため、治療に対する配慮も必要です。

新型うつ病(現代型うつ病)と従来のうつ病

最近は新型うつ病という言葉を聞くことがあります。新型うつ病は現代型うつ病とも呼ばれます。従来のうつ病とは、様々な点で違いがあります。

新型うつ病と従来のうつ病の比較
古典的なうつ病 新型うつ病・現代型うつ病
症状 心身ともに弱っている 多様性がある
趣味 楽しめない 楽しめる
考え方の特徴 自責的 他罰的
性格 責任感強い、律儀 几帳面
受診の特徴 症状が重くなってから受診 比較的早期に受診

新型うつ病は以下のような特徴が見られます。

  • 若年者に多い
  • 会社への従属を拒絶する
  • 自己中心的な考えを持つ
  • 他人や組織が悪いと考える
  • 受診は比較的早い
  • 家では元気で、趣味を楽しめる
  • 職場へ恐怖感を持つ

うつ病は、原因が無くても発症することがある

職場に原因が無くてもうつ病が発生することがあります。
職場の環境を何も変えなくていいという訳ではなく、多くの労働者にとって働きやすい職場を作ることが求められています。


当社の産業医はメンタル対策に慣れています。お気軽にお問い合わせ下さい。

産業医業務のお問い合わせはこちら