パソコン、スマホ作業におけるガイドラインの改定とストレス
令和元年に情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドラインが改定されました。平成14年のガイドラインにあった細かな作業区分が無くなり、特定の業務を4時間以上行う作業と、それ以外の作業の2区分となり分かりやすくなりました。 在宅勤務が一般的となり、事務所以外での作業についても言及されています。
ガイドライン改定の背景
職場におけるPC作業などの労働衛生管理は、平成14年の「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドラインについて」に基づく必要がありました。当時はスマホ(初代iphoneの発売は平成19年)を用いて仕事をすることは想定されておらず、一般的となった在宅勤務についても考慮されていませんでした。多くの仕事がデジタル化されたことで情報機器作業従事者の増大しました。高齢労働者も含めた幅広い年齢層での情報機器作業の拡大、携帯情報端末の多様化と機能の向上、タッチパネルなどの入力機器の多様化、装着型端末(ウェアラブルデバイス)の普及が進み、令和元年に「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」という名前でガイドラインが改定されました。
パソコンなどのディスプレイがある情報機器についてVDT(Visual Display Terminals)といっていましたが、現在のガイドラインではこの名称を使わなくなりました。
情報処理作業とは
情報機器作業はパソコンやタブレット端末等の情報機器を使用し、データの入力・検索・照合等、文章・画像等の作成・編集・修正等、プログラミング、監視等を行う作業のことです。パソコンでプログラミングをする作業、スマホでゲームアプリのバグを探す作業、タブレットでお客さまの契約書を作成する作業は情報機器作業に当てはまります。ガイドラインにおいて、対象者は就業形態に区別なく全員とされ、フルタイムの正社員だけでなく、アルバイトや派遣社員も含みます。事務所以外の場所において行われる情報機器作業についても事務所内と同様に労働衛生管理を行うべきとされています。
平成20年技術革新と労働に関する実態調査によると、情報機器を1日2-4時間作業する場合において、目の疲れ・痛み約90%、首・肩のこり・痛み約70%、背中の疲れ・痛み約20%、腰の疲れ・痛み約20%が生じ、作業時間が増えるほど症状が生じる割合が高くなることが知られています。
もちろん業務量の過多、裁量度の低さ、対人関係の悪さなどによって精神的な負担が強くなり、うつ病などの精神疾患との関連も認められます。
情報機器作業の作業区分
以前は①単純入力型(データ、文書等の入力業務)、②拘束型(コールセンターなどでの受注、予約、照会等の業務)、③対話型(文章、表などの作成、編集、修正等の業務、データの検索、照合、追加、修正等の業務、電子メールの受信、送信等の業務)、④技術型(プログラミング業務、CAD業務(コンピューターによる設計、製図))、⑤監視型(交通等の監視の業務)と作業時間によって作業区分を決めていました。今回のガイドラインでは以前のような細かい分類をせずに、特定の業務を4時間以上行う作業と、それ以外の作業の2区分となり分かりやすくなりました。
作業区分 | 作業区分の定義 | 作業の例 |
作業時間又は作業内容に相当程度拘束性があると考えられるもの(全ての者が健診対象) | 1日に4時間以上情報機器作業を行う者であって、次のいずれかに該当するもの ・作業中は常時ディスプレイを注視する、又は入力装置を操作する必要がある ・作業中、労働者の裁量で適宜休憩を取ることや作業姿勢を変更することが困難である | ・コールセンターで相談対応(その対応録をパソコンに入力) ・モニターによる監視・点検・保守 ・パソコンを用いた校正・編集 ・デザイン ・プログラミング ・CAD作業 ・伝票処理 ・テープ起こし ・データ入力 |
上記以外のもの(自覚症状を訴える者のみ健診対象) | 上記以外の情報機器作業対象者 | ・上記の作業で4時間未満のもの ・上記の作業で4時間以上ではあるが労働者の裁量による休憩をとることができるもの ・下記作業で4時間以上のものを含む 文書作成作業、経営等の企画・立案を行う業務、会議や講演の資料作成を行う業務、経理業務、庶務業務、情報機器を使用した研究 |
情報機器作業の拘束性がストレスの原因
情報機器作業におけるストレスは「拘束性」という言葉で表されます。画面からの情報を正確に得るために頭(眼)の位置が限定され、キーボードやマウスからの入力においては手の位置が固定される点で身体的に拘束されてしまいます。また、決められた時間内に処理すべき作業量が多い場合などには精神的な負荷となり精神的な拘束もあります。
「拘束性」が強いかどうかの判断は容易ではない場合があります。本人が気付かないことも多く、個人差も大きいため、情報機器作業については業務時間を含めた健康管理をきちんと行う必要があります。
別の資料で情報機器作業における作業環境、作業、健康管理について説明する予定です。
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