職場復帰判定時に確認すべきこと
職場復帰のことを復職と言うことがあります。産業医は職場復帰の判定を会社側、労働者が側の意向に従って行っている訳ではなく、基準に従って評価を行い、職場復帰について意見書を書きます。休職中の労働者の職場復帰判定の際に本人や事業者に確認していることは以下の通りです。
職場復帰の意思があるか
本人に働きたい気持ちが無いと職場復帰はできません。休職中の労働者のほとんどが、職場へ復帰することに対しての不安を抱きます。「同僚に迷惑をかけた」、「仕事についていけるかどうか分からない」、「どういう顔で仕事場に行けばいいか」という考えは休んでいれば誰にでも生じ、自然なものです。
人事労務担当者、職場内の産業保健スタッフ(産業医、保健師など)が本人の不安を傾聴し、マイナスの気持ちを取り除くことが大切です。
病気で休職している場合、不調者は主治医に職場復帰の意思を話します。主治医が病気の状況を鑑みて「職場復帰可能」という診断書を書きます。その診断書を会社に提出することで、本人の職場復帰の意思が会社に伝えられます。
病気が医学的に病状が回復しているか
主治医からの「職場復帰が可能」という旨の診断書を提出をしていただきます。診断書が会社に提出されると、産業医面談が設定されることが一般的です。産業医は病気が完全に治ることを求めてはおらず、就労に支障が無い体調になっているかを確認します。
残念ながら完全に治らない心身の病気があります。治癒をしなければ復帰は無いという判定は不適切です。例えば、心筋梗塞になれば一部の心臓の組織は壊死する(機能しなくなる)ため、元通りの心機能に戻すことはできないことがあり、体力が低下することがあります。胃癌で胃の一部を切除すると、食欲不振が続くことがあります。うつ病などの職場で頻繁に認められる精神疾患は、仕事に支障が出ない程度の集中力の低下などの状態が続くことがあります。
職場復帰の判断で大切なことは、仕事に支障がない程度まで体調が回復していることです。例えば、通勤電車で過呼吸や動悸の症状が出て通勤できない方の場合、電車に乗る訓練を繰り返します。電車内で症状が時々出たとしても、出社に支障が無ければ良い評価をします。就業規則通りの通勤時間帯に電車に乗れることも確認します。 気持ちが落ち込んでいたり、仕事に集中できない場合、仕事に関係がある内容の勉強や、PCでの作業を行ってもらいます。体調が悪い時は本の内容が頭に入らなかったり、10分程度しか集中ができず、ミスも目立ちます。体調の回復に応じて、徐々に集中して取り組める時間が増えます。概ね事前に計画した予定通りの作業ができること、1時間集中して勉強できること、PCで円滑に書類を作ることなどを評価します。
復帰してみなければ最終的な体調の評価は困難ですが、通勤することに近い環境を設けて病状を判断することが大切です。
日常生活が安定しているか
睡眠、食事などの生活リズムが安定していなければ、職場の就業規則に従ってきちんと勤務をすることは困難です。メンタルヘルスについても、不眠や食欲不振という症状が多いため、生活リズムの安定が病状の回復にとって非常に重要です。
休職中に家で過ごしていると体力が低下します。都心の満員電車での通勤も体にとっては多大な負荷となります。車で通勤する際にも体力を消耗します。
職場復帰後に時短勤務(午前のみ出社など)が備えられていない職場では、就業規則に従って週5日間・1日8時間の労働となり、8時間の仕事は身体へ著しい負担となります。
例えば朝7時に起床、23時に就寝、毎日60分以上のウォーキング、週に2回のスポーツジムなどが習慣になっていれば生活リズムが安定し、ある程度体力があると評価します。
今後の治療の見込みと、主治医からの留意事項はあるか
職場復帰後にどのような治療をする予定か、通院頻度はどうなる予定かを確認する必要があります。本人にとって一番大切なことは自分自身の体調です。職場も本人の体調を一番に考え、通院や治療の時間をできる限り確保します。
癌の治療は毎日抗癌剤を投与したり、放射線を照射することがあります。主治医の外来が平日にしか無いこともあります。再手術の予定があれば、休職や、その後の体力の低下が予想されます。復帰後の業務上の配慮を行う上でも、治療の日程を事業者が事前に知る必要があります。
病気の後に、重たい荷物を運べない、立ち仕事ができない、運転ができないなどの就業上の制限が出ることがあります。メンタルの病気を抱えている不調者の場合は、業務量や業務内容についての配慮が必須となります。
その際には事業場内で、本人が働ける業務を探すといった業務上の配慮を行うことが大切です。
体調不良の原因が職場にあれば、それが解決しているか
過重労働、ハラスメント、長時間の通勤、重量物の搬送など様々な作業環境が体調不良の原因となります。本人の不調の原因が職場にあれば、それらを解決することが必要です。
特にメンタルの病気の場合、休暇や薬である程度体調が良くなったとしても、職場に原因があった場合には復帰後に再発するリスクが非常に高いことが知られています。腰痛の場合も同様で、運び方を変えたり、治療を行ったとしても、重量物の搬送が常態化していれば症状が良くならないことがあります。
産業医の力を借り、人事労務担当と本人が所属していた所属部署の上長が繰り返し話し合うことによって現実的な方法を模索します。もちろん、個人情報の保護をきちんと行うことが大切です。